AliguraProduce/スティレオ/10209

 ファンファーレと共に町中のテレビモニターの映像が砂嵐に浚われ、もはやお馴染みの仮面に長髪。堕落王フェムトの姿を映し出した。
 本日の抜き打ち大参事のアナウンスだ。
「ハァイ!今日も豚らしく餌に鼻先擦りつけてるか愚民ども!」
 こんな電波ジャックが始まった頃にはすでに何かが始まっているのが常だ。堕落王はいつも事後報告なのである。
 混乱の在り処を探してみんながあたりを警戒した。どこかで爆発や崩落や、空から魔獣が投下されたこともあった。全方位を確認したが、誰一人として狼煙一つ見つけられなかった。
「どこを探している、そっちじゃない!」
 民衆の行動を見透かして堕落王は茶化してくる。
「えー、今回はお便りの紹介から。
 “いつもいつも行き着く先は大量殺人で芸がないよね。たまには別の趣向を凝らしたらどう?た・と・え・ば、みんなをラブラブにしちゃうとか!”
 はい、ラジオネーム・偏執王アリギュラさんからでした!」
 ラジオネームもクソも本名である。
「――というわけで、今回はアリギュラプロデュースだ!術式を施したウィルスをばら撒いた。通称ラブウィスル……要するに媚薬だな!感染するとアッチの理性の箍が緩んで日頃遂げられない思いの丈をぶつけてしまう。内気なお前らに粋な勇気のプレゼントってわけだ!せいぜい頑張ってくれたまえ!」
 両手でハート型を作るフェムトの背後で恋のキューピッドアリギュラが両手でバキュンポーズを決める。
「あ、ちなみに一度感染すると二十四時間以内に両思いになれなかった寂しいオヒトリサマは全身が硬化して孤独な像となって死ぬ。感染力は低いが皮膚が接触すると伝染するぞ!」
 前振りで殺戮を回避したかと思えば結局こういうオチなのである。
「だが愛し合う二人なら触れ合っても問題ないだろう?感染者の尻に小さなハートの痣が出るから見分ける際の参考にしてくれたまえ」
 そして電波ジャックは終わった。誰しもが自分の尻を触り、また他人の尻を見た。服越しでわかるはずもないが、そうせずにはいられないのだ。
 今日も今日とて厄介なゲームが始まったのである。

 忙しく電話をかけては切って情報を集めていたスティーブンはザップからの電話を最後に深く息を吐いた。
 いつもに比べバカバカしい騒動であるが、あちこちでレイプ騒動が勃発している。フェムトの言う両思いというのはつまりセックスのことと推測された。ウィルスに感染してもひとしきり性欲が満たされると症状が落ち着き、尻の痣も消えていくのだそうだ。自慰では解決しない。相手がいなければ。
 お蔭で風俗店が大繁盛。たまたまウィルスに感染した時愛人宅で素っ裸だったザップは非常に円滑に個人的事態の収束を迎えて報告をしてきたというわけだ。
 ただれ切った生活習慣も時には役に立つものである。
 風俗に駆け込んで解決するならば随分と穏やかな事件と言えるが、当然ながら金も余裕もない連中によるレイプ騒ぎも多数報告されており、小さな暴行騒ぎを見つけて感染者を隔離することが今回の仕事だった。地味で厄介で手間がかかる。
 外に出ているメンバーは防護服を着こみ、あからさまに興奮状態の者は手当たり次第にぶちのめして拘束し隔離用に確保した建物に収容した。そこまでは比較的人道的に行えるのだが、隔離した感染者はセックスできなければ死を待つのみであり、そんなオオカミの群れに慰み者を放り込むことも出来ない。
 我らがリーダークラウスがその点で悩んでいる間に男女分けて収容したタコ部屋の中で乱交が始まるとう、非常に頭の痛い方向に事態が進んでいたが、その件はクラウスには伏せて小競り合いの収拾に奔走してもらっている。後で「個々に愛する人に連絡をさせたら意外と丸く収まった」とでも説明すればいい。クラウスは信じてくれるだろうし、実際愛情の有無は別としても感染者同士は合意の上でコトに及んでいるのだ。多分。多数の死人が出るよりいいだろう。
 事務所に詰めてマップをモニターしながら報告を受け、指示を出しているスティーブン はそういう結論を出した。
 幸い感染力が低いというのは本当らしく、ある程度隔離が進むと新しい感染者の報告はグッと減った。電話の波も収まりパソコンモニター上のマップも赤で塗り分けられたゾーンが減っている。
 予想よりもマシな進行に安堵して執務椅子に体重を預けた。
 そこへ小柄な少年が転がり込んできた。彼、レオナルドもライブラのメンバーだが、戦闘要員ではない。腕っぷしも弱ければ銃も握りたくないという平和主義者だ。代わりに特殊な眼をもっており、ライブラの中でも彼にしかできない役割を与えられているのだが、今回は完全に戦力外だった。尻を剥いてみなくても感染者を見極めるぐらいのことはできるかもしれないが、現状では発症を確認してから収容するのでも間に合っている。非力な彼を外に置いておく方が不安なので、事務所に退避してくるよう指示しておいた。
「やあ、遅かったな」
「すいません、逃げてくる途中で感染者が誰彼かまわず追いかけまわす鬼ごっこ状態になってまして」
「まさか触られたのか」
「いやいやいやいやいや、……というか相手が若い女の子で担当エリア外のはずのザップさんが颯爽と現れて……」
 スティーブンは無言でモニター上にメンバーのGPS情報を表示させ、明らかに持ち場を離れているザップのマーカーを確認すると、被害地域を巡回している少女・チェインに連絡を入れた。その不穏すぎる電話をレオナルドは同情の欠片もなく見守った。
 ザップの空けたエリアをカバーするのはやはり女性のK・Kだ。この騒動の後でザップがどうなっても庇うことはないだろう。絶対に。どんな風に泣きつかれてもだ。いつも何だかんだで世話を焼いたりもめ事に巻き込まれたりするレオナルドは固く固く誓った。
「スティーブンさんの方は落ち着いたんですか」
「粗方ね。まあしばらくは各自担当エリアを見張っていてもらわなくちゃならないが、この調子なら俺が配置管理するまでもないだろう」
 一服代わりにコーヒーを飲もうとカップを口に当ててから中身がもうないことに気づいた。
「あ、俺淹れてきますよ」
「じゃあ熱いのを頼むよ」
 クラウスの出動に合わせて執事のギルベルトまで留守にしている。今回はまったくの役立たずであるレオナルドとしてはこれぐらいやらなければとすかさずお茶くみに走った。
 オーダー通り沸かし直した熱湯でドリップしたコーヒーを運んでいくと、ちょうどチェインからの報告が入ったところだった。半分モニターに向かったまま横目で視線をくれて伸ばされた手にカップを渡そうとして、手を滑らせた。慌てて側面を掴むと熱さでまた指が踊る。その手の上から電話を切ったスティーブンが支えてやっとカップは安定した。
「わーっ!すいません!」
「おいおい、大丈夫か。指は火傷してない?」
 カップを机に置いてレオナルドの手を取り開かせる。幸い火傷までは至っていなかった。――が、
「……レオ、君ちょっと熱があるんじゃないか」
 体温が高いような気がする。まさかと思って顔を見れば、予想を肯定するかのようにほっぺたが真っ赤になっていた。
 掴まれた手をパッと引いて自分の顔をペタペタ触り、信じられないという表情で自分の両腕を抱いて身震いした。風邪による高熱で寒気を覚えているようにも見えるが、今この時に限ってはそうじゃない可能性の方が高い。
「えええええッ?本当に誰にも触ってないっすよ!何で?!」
 自分でも納得がいかない様子でも症状は重くなる一方だ。肩を竦めてしゃがみこんでしまった。見下ろした首や耳の縁まで赤く染め上げられている。
「君の言葉を信じるとすると、可能性は一つだな」
 フェムトのばら撒いたウィルスの最初の感染者だったということ。発症が遅かったためにウィルスから逃れたとばかり思っていたが、これまでのレオナルドのことを思い出せば感染していてもおかしくない。過去にもフェムトの仕込みの猿を拾って当時の事務所を真っ二つにされている。非凡な巻き込まれ体質なのだ。
「そんなぁ……」
 絶望しているらしいが熱い吐息の合間に呟くので深刻さよりいかがわしさが先に来る。もう諦めるしかないだろう。
 それよりも、とスティーブンは自分の手のひらを見つめた。触ったのだ。今さっき、レオナルドの手をばっちり触った。伝染力は低いはずだが、本能的にマズいと感じている。まだ体の変化は感じられないが。
「あ、ちょっとヤバイ……うっ……うーっ…」
 目の前で丸まっていたレオナルドが切なく唸った。床で蹲るのを力づくで引き起こした。抱えてソファに移動してやる間にも体がびくびく痙攣する。
 そんな様子を見ていると感化されるのか、スティーブンも腹の奥底が疼き始めた。迂闊だった。失態だ。だけど死を覚悟するような展開ではない。決まった恋人がいるわけではないが電話一本で会える女ならいくらでもいた。もちろん後腐れなく抱ける相手だ。
 だけど、自分はそれで良くてもレオナルドを放置するわけにもいかない。知る限りでは彼に恋人はいないし、遊び相手なんてもっての外。死なれても困るが、スティーブンが適当に見繕った相手を紹介して素直に受け入れるだろうか。今は非常事態だから流されるまま初対面の相手を抱くところまでは出来るかもしれないが、恐らく童貞だろう。正気に戻ってから落ち込む可能性もある。純情な少年というのもなかなか面倒くさい。
 そもそも、歩くのもままならず丸まって身体の興奮を我慢している状態で外には出せない。かといって女をライブラの事務所に呼ぶわけにもいかない。
 一応は自分で慰めてはいけないという頭はあるらしく、自分の手をギュッと握って膝をこすり合わせている。
 そうなるとここで彼を甘く苦しい病から解放してやれるのは俺しかいないことになるじゃないか。お互い感染しているのだからコレが一番効率的だ。快楽に耐性のない少年が目の端から涙をポロポロこぼしている。それを放っておけるか。
 いやいやいやいやいやいやいやいや、何を考えている。レオナルドのためみたいな建前で抱きたいだけだろう。ウィルスに振り回されてどうする。
 自分の頬を張って携帯をとった。さっさと相手を確保してしまえ。冷静に考えてそれしかない。職場で男、それもまだ子供を抱くなんて正気じゃなくてもマズい。考えなくてもわかることだ。
 携帯のメモリを開いて「本人の意思より安全第一」なんて心で唱えながらレオナルドの相手を頼める女を探した。口が硬くて少年みたいなタイプが好みの、できれば美女。
 そんな好条件の女があっという間に見つかって電話をかけようとした。だが発信ボタンに指が触れる前に女の顔が頭に浮かんだ。気の強そうな目元で肉厚な唇が艶っぽい巨乳だ。見た目より優しいので少年が童貞でもうまくリードしてくれるに違いない。…と想像したら電話をかける気が失せてしまった。何であんな魔女みたいな女にレオナルドを抱かせるお膳立てをしなきゃならないんだ。
 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、違うだろう。目の前の獲物を奪われまいとする本能なのか思考が怪しい。
 仕方ない。レオナルドには悪いがまずは自分からだ。事務所には当分誰も戻らないようそれとなく手配して、手早く済ませて戻ればいいだろう。レオナルドのことは後回しだ。
 自分の相手はすぐ見つかった。というか誰でもいいことにしたので一番上に名前を見つけた女にした。悩む前に行動するのが今回の肝だ。大体わかって来たぞ。
「…やあ、アリス。君は今……」
 暇?何処にいる?すぐ会いたい。という文句がスポンと頭から抜けた。ソファからレオナルドが手を伸ばして背広の裾を引いたのだ。
「……元気かい?ああ、それは良かった。外は物騒なことになってるからくれぐれも気をつけて。じゃ」
 切ってしまった。いじましい手を布地から自分の空いた手に移し、指を絡め、指の股や側面を撫でるのに忙しくて約束を取り付けるどころじゃなかった。
 完全にマズい方向に突き進んでいる。
 全てはウィルスのせいなのだ。絶対に後で後悔する。お互いにだ。彼なんか女を知るより先にこんな男の上司に犯されるなんてあまりにも可哀想だ。
 しかし、スティーブンの葛藤に反してレオナルドは握った手を熱い頬に引き寄せた。冷たい指の背に頬擦りして乾いた唇の端で掠めていく。
 そんな蕩けきったいやらしい表情でやることがそれか。初心すぎるおねだりに目眩がした。君だって男なんだし男女のことを何も知らないわけじゃないんだから、他に何かあるだろう?もっと直接的な誘い方ってものが。俺はこんな子がみすみす売女に食われるのを見ていなきゃならないってのか。
 ダメだ。何がダメってお互いにウィルスにやられていることだ。歯止めが利かない。
 指の背で唇を掠めるのが気持ちいいらしく繰り返しやられ、つい赤く色づいた唇に親指をねじ込んでしまった。おそるおそる指の腹を舐められる。それしきの愛撫、いつもならどんな好みの女が相手でも無視できるのに我慢ができなかった。
 親指で歯列を撫でて再び顎の中に突っ込み、舌を追い回して唾液が口から溢れるほどに掻き回した。その一方でひどく冷静に携帯を操り、感染から発症までタイムラグがあることを理由に向こう二時間以上見回りを続けてくれるようメールを一斉送信した。
 それが完了すると携帯そのものを放り出して親指を抜く。離れていく手を惜しんで縋りついてくるのを宥めて抱き上げ、ソファに座り直した。
 股に座らせ服の裾から手を潜り込ませた。もはや全身が性感帯だ。滑らかな肌の何処を触っても身悶える。
 股間をくつろげてやれば下着はすでにとんでもないことになっていて、布地から染み出した体液を指先でくるくる塗り広げてやったらか細い声を漏らして首を振った。
 女性同士のカップルでも解決しているらしいから挿入の有無が問題ではないだろう。とにかく二人で以って身体を鎮めればいい。そう割り切ることにした。
 濡れて絡みつく下着を剥ぎ取って隠れた肌を露わにした。内股を手のひらで丁寧に味わいながら開かせると、ギリギリ尻と呼ぶか股と呼ぶかの際どい部分にハート型の紅い痣を見つけた。ちょうどキスマークみたいな大きさだ。
「君のはずいぶんいやらしいところにあるんだな」
 揶揄すると「違う」とか「見ないで」とか抗議されたが、そんな上擦った声で何を言っても誘っているようなものだ。
痣を軽くつねってやった。そんなわずかな痛みさえ身体を燃え上がらせる刺激になって濡れそぼった性器が震える。
 経験こそないがスティーブンだって男同士のカップルのことがわからないでもない。その上で他人の男性器に興味なんかなかったはずだが、赤く充血してパンパンのレオナルドの大事な部分を見ていると自分まで張り詰めてくる。華奢な太腿の間で子供というよりは大人な性器が屹立して触って欲しいと主張していることにひどく興奮する。
 レオナルド、君はもうちょっと鍛えた方がいい。戦えなくてもこの辺とか、もっと筋肉をつけて損はない。今の細さではとても悪いことをしている気がするんだよ。
 気がするも何も悪いことをしているに違いないが、歳の割りに小柄で仲間内ではダントツに華奢な身体をまさぐっていると罪悪感がわく。だが、それで動きを止めてやるわけじゃない。
 ダイレクトに握り込んで擦り上げると三往復もしないうちに限界を迎えた。全身を震わせスティーブンの手の中に射精した。汗ばんだ足が抱えた手に吸いつくようだ。
 一度抜いたら少し落ち着いたのか、グッタリともたれかかってきた。これでウィルスは消えたのだろうか。痣はすぐには消えないようだが。
 スティーブン自身はまだ身体を持て余しているが、レオナルドの処理が済んだことで気持ちに余裕が出来た。始末をしてやろうとハンカチを取り出し股間に当てようとした。その手を掴まれた。
「まだ……スティーブンさんがまだです」
「いいんだよ。君が落ち着いたなら俺は俺で何とかするから気にするな」
 優しく言ったつもりだった。強がりに聞こえないように余裕を含ませて。
 だけどレオナルドは思い腰をゆっくり動かして膝を跨ぐ格好で向かい合いに乗り上げてきた。まだ股間を濡らしたままで扇情的な真似をするじゃないか。
「俺もします」
「心配しなくてもいいんだよ」
 言いながらもつい尻から太腿にかけて手を這わせてしまう。そうするとレオナルドがくすぐったそうに腰を揺らした。
「そこを退くんだ」
「大丈夫ですから、…その、俺の身体使って下さい」
 その言葉にほんの少し眉尻が跳ねた。何もおかしいことはないーいやこの状況が全ておかしいのは横に置いておくとして、事務的に抱き合わねばならないのだから変なことは言ってない。ペンがなくて困っている隣人に自分の持ち物を貸す時にもこんな言い回しするだろう。
 でも、何か気に入らなかったのだ。
「いいよ、君に世話をかけるほど困っちゃいないから」
 意識的に足から手を離したのにレオナルドは退かなかった。
「俺ばっかりしてもらって悪いです、大丈夫ですから、なんだったら後ろも使ってください」
「意外だな。君、そんなこと言えるタイプだったのか」
「……は、初めてじゃないですから」
 嘘だ、と思った。声が震えてる。さっきから誘い方も何もまるでわかってなかったじゃないか。変に気を遣って適当なことを言ってるに違いない。
 そんなスティーブンを考えを見透かして、一瞬唇を噛んでから語り出した。
「本当です。多分今想像されてる経験とは違うけど……この街にきてすぐの頃にカツアゲされて、そのついでに無理矢理ねじ込まれたってそれだけなんすけど……」
 この街じゃ珍しくもないありふれた話だ。カツアゲ被害常連の彼にそういう経験があっても何の不思議もない。
 だけど、スティーブンの中のウィルスが一瞬だけスッと冷えた。
「それは辛い体験だったね。で、その無法者を同じことを俺にしろって言ってるのは分かってるか?」
 パッと青い眼が見開かれて神々の義眼が間近に現れた。明らかに人工物ではない底なしの湖みたいな透明な眼。あらゆるものを見て、他人の視界さえ支配する。こんなごく普通の子供が持つには不釣り合いな至高の芸術品が呆然とスティーブンを見つめていた。その気になれば何でも、それこそスティーブンの眼が映す自分の表情だって見ることができる眼は何も映していないように空虚だった。
「……あ、ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃ………」
 言葉が平手になって頬を打つことがある。多分今彼はそんな様子だ。さっきまでどこか熱っぽかったのが青ざめて体を離そうとする。だがそれは叶わなかった。
 スティーブンが一度離した手で腰を抱いて体を入れ替え、ソファに組み敷いたのだ。
「まあ、俺も大概無法者だけどね」
 瞬間的に冷えたと思った熱が爆発して脳みそが溶けそうだ。服をめくりあげて暴いた胸を啄んで宥めたばかりの股間を追い立てる。まだ完全には解決していなかったらしい身体はすぐに再燃した。
 確実に気持ちのいいところばかりを擦って、舐めて、吸って、苛め抜いた。
 充分に身体が緩んだところで尻の狭間に指をすべり込ませる。そこにきてビクついたのは、期待からか恐怖からか。そんなことはどうでもよかった。
 傷つけないようもみほぐしてからポケットに忍ばせているスキンを指にはめて体内に潜り込ませた。経験がある風な告白をしたくせに少しもこなれていない。飲みこみ方がまるでなってないし、快感が得られているわけでもなく、反射的にこぼれそうになる拒絶の言葉を唇を噛んで耐えている。わけのわからない我慢をしている。嫌ならそう言えばいい。
 締め付けることだけは得意で、挿入の下準備をする間も頻繁に指を食いちぎらんばかりだった。
「力を抜いていた方がいい。ちゃんと呼吸して。痛いのは君だよ」
 言われてノロノロと口を開き、ゆっくり息を吸って吐いた瞬間に亀頭を押し込んだ。堪え切れなくなったレオナルドが呻く。前への刺激であやしながら進めるだけ進むと真っ赤に染まった頭がましになって、泣きながら口元を抑えるレオナルドにピントが合った。理性の箍が外れやすいっていうのは厄介だ。やっと真にその意味が分かった。ただ単純に獣みたいに欲情して我慢ができなくなるっていう意味じゃないかったのだ。
 苛立ちも欲情も独占欲も抑えられなくなって惨いことをした。まだ身体は治まっていないのに後悔で頭をぶん殴られたようになった。
「すまない、レオ……」
 何に対しての謝罪かわかっちゃいないだろうに、レオナルドは必死に首を振った。
「嫌だったらそう言ってくれ」
 こんなに涙でぐちゃぐちゃなのにやっぱり首を振った。
「立場とか、そんなことはいいから、嫌だとか怖いとかやめろだとか言ってくれよ」
 子供相手に最低のことだ。この期に及んで拒絶されなきゃ引き抜く決心もつかない。理性を取っ払った本心ではこのまま好きに抱き続けたいのだ。
 それなのにあろうことか、レオナルドは手を首に、足を腰に絡めて引き寄せた。
「……大丈夫、です…から……」
 最初はこの子のことを知って、この街にもライブラにも不似合だと思ったのだ。思った通り柄の悪い連中に絡まれることはしょっちゅうだし、自力でやり返せる力もないから金は奪われ放題。ライブラに入ってからは敵に捕まったり、巻き添えを食って大怪我したことも度々あった。ライブラのメンバーであるよりも神々の義眼所有者であることの価値は計り知れない。これからたくさん辛い目に遭うだろう。
『可哀想なことにならなければいいけどね』
 レオナルドをライブラに入れたクラウスにそう言ったのはスティーブンだった。今はスティーブン自身がレオナルドにとっての災厄だ。
 だけど彼はライブラにおいても音を上げない。大変なことはたくさん起こるのに、変人と超人の坩堝に順応してなんだかんだで生き延びていた。そういう強さをこんなところでまで発揮しなくてもいいのに。
 腰に絡んだ足が刺激を催促するように動く。意図したわけじゃなく、焦れて膝をすり合わせようとしたに過ぎないのかもしれない。
 それを機にスティーブンは動き出した。悩む前に行動するのが肝だってついさっき学んだばっかりだ。
 甘い声を引き出す角度を見つけて何度も突き上げる。ずり上がる体を押さえ込んで何度も、何度も。快感の波に耐えようとレオナルドは腕に力を込め、スティーブンのシャツの肩口に額をこすりつけた。暖かな涙がシャツに浸み込んで、離れた途端に冷えていった。

 男って言うのは本当にしょうもない。興奮が落ち着いた途端に現実に引き戻されて死にたくなる。
 ちゃんとウィルスが消えたのかどうか確かめるべくドロドロに汚れたレオナルドの足を持ち上げて確認したが、そこのところは間違いなかった。代わりに胸元に自分がつけた鬱血があったが、それは見なかったことにしてシャツの裾を下ろした。
 後始末をしている間にうとうとしだした少年をそのまま寝かせて衣服を整え、スティーブンは事務所に缶詰で仕事した際に置いておいた予備のシャツに着替えた。同じ色のものをストックしておいて良かった。このまま帰ってしまいたいぐらいだが、そのうちしたら帰ってくるみんなから報告を受けて報告書を書かせて顛末書を作成しなければならない。レオナルドは感染者から必死に逃げてきたため疲れ果て、到着してからずっと眠っている。そういう筋書きである。
 口裏なんか合わせなくたって先制でスティーブンが出まかせを言えば上手いこと合わせてくれるだろう。今日のことをお互いの胸の内に留めておきたいことは確かめるまでもない。
 抱き合っている間に届いていた何件かのメール連絡を確認して対応し、自分の分の報告書に取り掛かった。寄せられた情報を総合して、問題のウィルスがどんなものだったのかを綴っていくが、感染から発症までのタイムラグの件の情報源を書き躊躇って一度タイピングの手が止まった。
 そこのところを適当に言い訳して先に進む。ウィルスの効果について。これについては実体験があるので非常に克明に書ける気がしたが、これまた手が止まる。
 単純に性欲が抑えられなくなるようなものだったならどんなに良かったか。堕落王の説明はなかなかどうして正確だったのだ。
 成り行きで欲情してしまったせいなのか、元々そうで自覚がなかっただけなのかはわからないが、今はっきりわかる。少年のことを好ましく思っている。つまり、恋愛対象として。
 遅々として進まない報告書を諦め、すっかり冷たくなったコーヒーカップ片手にソファを覗き込んだ。なんでこんな厄介な子供を好きになってしまったんだ。件のウィルスの影響で一時的に混乱しているだけならじきに気の迷いだと気づくのかもしれない。それがいい。それが一番だ。彼は女の子じゃないんだし、犬に噛まれたとでも思ってもらうしかない。
 きっと時間が水に流してくれる。そう信じることにして身を翻し執務机に戻ろうとした。
 その背広の裾を控えめに引かれてついつい振り向いた。
 ああ、ダメだ。この気持ちが思うほど簡単に消えていかないことを一目で悟ったのだ。