さまじろinセッ出ら部屋/さまじろ/4142

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 私は神である。雨を降らすも虹をかけるも思いのまま。悠久の時を過ごすうちに退屈を拗らせた私は人類の創りし薄い本を読み、とある遊びを始めた。
 それすなわち、“セックスしないと出られない部屋”である。
 様々な容姿、年齢、関係の人間を閉じ込め行動を観察するのは新鮮な娯楽だった。
 今日ピックアップしたのは帰宅途中の男子高生と仕事に向かう途中のやくざだ。
 男子高生の方は過去に一度、兄弟と共に閉じ込めセックスせずに脱出した稀有な経験者である。その際は兄の励ましと弟の機転と尊さに救われたので、今回は次男のみを閉じ込めてみた。
 相手は兄の因縁の相手である。尊敬する兄のことを思えばさぞや苦悩することだろう。
「またかよ!」
 何もない部屋でただ一つ掲げられたルールを目にした瞬間に少年が叫んだ。その声でやくざの方も目を覚ます。寝起き最悪という表情で室内をぐるりと見回し、近くに立っていた少年が親指で差した看板を黙読する。元から渋い表情がやや深まる。
「言っとくけどさ、ここマジで隠し扉とかねーから。前に兄ちゃんと三郎と閉じ込められた時に徹底的に調べたから」
「……兄弟でヤッたのか」
「…………!ねーよ!!……前の時は天井が脆くて三郎のこと肩車して上から出たんだけど……」
 だから今回はどっちが肩に乗るか、という相談をしようとする少年だが、男は面倒くさそうに首を左右に倒して筋を伸ばすと傍に立っていた少年の手を引いて座らせ、その上着に手をかけた。
「ンなのヤッた方が早ぇだろうが」
 左様である。セックスしたらそこまでの経過を問わず解放されるのがこの部屋のルール。ちなみに今回の天井は破れない仕様だ。
 近づいてくる男に負けて尻もちをついた少年の立てた両膝の間に男が体を割り込ませて足を閉じさせまいとする。その躊躇いのない行動に少年は慌てて服の裾から潜り込んだ白く筋張った手を捕まえた。
「は?!マジでヤんのかよ?誰かに監視されてんだぞ?!」
「ちんぽとケツだけ出しゃ十分だろ」
「そういう問題じゃなくね?!」
 貞操観念とトレードオフで合理性を追求するやくざと戸惑う少年。ここから揉めるのもまた面白いのだが。
「今更何カマトトこいてんだ?」
 想定外の一言で問答を切り上げたやくざは熟れた手つきで少年のベルトを外していく。あれよあれよという間に、あまりにも簡単に下着ごと太腿の中程までずり下ろされた。
 脱がせると同時に少年にのしかかるように体を寄せる。丁度上からのアングルでは露出した肌が隠れる位置に入り込んだ。少年から剥ぎ取ったジャケットを男が自分の腰に巻きつけると男の背後視点からも隠される。
 やくざ自身はポケットから自前のジェル付きコンドーム取り出すと、宣言通り、前だけを必要最低限にくつろげた服の中から男根を掴み出す。
 やる気があるのは結構だが突然引き合わされた顔見知り相手にそう簡単に勃起するのか?と私が疑問を抱く間に、足が窮屈そうな少年の上に身を屈めて唇を重ね、舌をすり合わせながら行った軽い手淫で準備万端整った。
 しかしながら相手は男。抱く側の手際が良かろうともそう簡単には、
「マジですんの……?」
「閉じ込めた野郎がネットにハメ撮りばら撒いたら俺がきっちりケジメつけさせてやっから安心しな」
「そんなのやられたら俺もう兄ちゃんの顔見れねぇよ!」
 男は笑う。
「うちに引っ越してくるいい機会じゃねぇか。……力抜いてろ」
 むくれる頰を指の背で撫でる。そうすると文句と躊躇いばかり口にしていた少年が大人しくまつ毛を伏せ、細く息を吐いた。いつの間にか上気した頰が薄紅に染まっている。
 履物が絡まって開けない足を邪魔そうに抱えながら男がゆっくり腰を進めた。丁寧な前戯を施されたわけでもないのに少年の体はいとも容易く勃起した男根の侵入を許し、受け入れていく。
 前も後ろも横も、男の体や足や服によって巧妙に結合部が隠されているが、素股なんかでお茶を濁すわけでもなく、間違いなく挿入が果たされた。
 これまで十数組を閉じ込めたが、最短記録更新である。驚き、確認を怠っていた二人の過去を参照すると、ほんの二時間前に男の所有するマンションで睦み合ったばかりであった。
 まさか交際関係にあろうとは。何しろ兄の仇、仇を崇拝する弟。何故そうした関係に至ったのか新たな興味が湧いて、部屋から解放することも忘れて二人の過去の閲覧に気を取られている間。
「……おい、鍵が開いたりする気配ねぇぞ」
「知るかよぉ……な、もういいじゃん。これでオッケーのはずだろ?」
「出口が開かねぇのにいいわけあるか。もちっとちゃんとしねぇとダメなんじゃねぇか?」
 入れるだけ入れて止まっていた腰が揺さぶられると床に背をつけて転がされている体にぎゅっと力が入る。まだ、今朝蹂躙された痕跡の残る内部が咥え慣れた雄を締め付けて意思とは無関係に男を煽る。部屋の条件を満たすためにただ挿入されただけなら、内部を刺激する意図なくすぐ抜かれたならまだ平気でいられたはずだった。
 こんなの刺激に対して起こる、単なる肉体の反応なのに男は勝手に歓喜と解釈して尚更に腰を振る。こんな得体のしれない場所で盛りやがってと非難するつもりで見上げると、小一時間前に名残惜しく別れた顔が熱っぽく見つめている。部屋から出るためって表情じゃない。白い顔の中でギラついた目と濡れた唇だけが艶めかしく赤く濡れていて唾を飲み込む。おまけに下半身にも力が入った。
 この部屋は壁と床と天井以外何もない。カメラも見当たらないが、万が一盗撮されていたとして、この顔だけは人目に触れさせずに自分だけのものにしておきたくて首に腕を絡めて抱き寄せた。邪魔な服を残したままのせいで密着できないのが歯がゆい。
 昨夜はしばらく二人きりで会えなかった寂しさから、予定の会わないところを無理して泊めてもらったのだ。深夜に先にマンションに到着して部屋で落ち合い、お互い疲れているからとそのまま何もせず寝た。翌日もそれぞれ昼前から予定がある。
 朝日が昇ったらイケブクロまで帰らないとならない。部屋を出る時間を意識しながらギリギリまで抱き合って、シャワーも浴びずに肌の表面だけ拭って、来た時と同じ服を身につけマンションを出た。
 そして、まだ中を拡げられる感覚をリアルに思い出せるようなタイミングでここに連れてこられた。
 セックスしなきゃでられない?さっきヤッたっつーの。俺たちにとってはイージーすぎるゲームだ。
 昨夜会う前ならもっと手間取ったはずだが、穴はまだコレの大きさを覚えている。元からそういう器官だったみたいに簡単に飲み込んで、男の地道な教育通りに締めたり緩めたりを繰り返した。上手にできるといっぱい気持ちいいことをしてくれる。下はもちろん、形の良い指であちこちを撫でて褒めてくれる。外じゃ部下の扱いも悪いどうしようもない男なのに、コレに関しては飴と鞭の使い方が巧い。
 体を重ねるのはいつも誰の邪魔も入らない防音完備のマンションだ。簡単に済まされることなんか一度もない。俺がベッドに持ち込もうとした余裕もプライドも全部ぐちゃぐちゃに溶かされ、男の望むままにセックスに没頭することに慣れてしまっていた。服や体の間に隠して胸や先端の潤んだちんぽを弄りながら腹の中を抉られると弱い。鮮やかな快楽に耐え兼ねて瞑った目を薄く開いて見上げた顔がちゃんと気持ちよさそうに歪んでいると幸福感で胸もいっぱいになる。
 部屋から出るという目的も忘れて散々喘がされた後で漸く鍵の開くような金属音がした。音の方を振り向くと壁の一つに長方形に切れ目が走り、質素なドアノブが出現した。
「あ………………」
 出られるんだ。目的が果たされたと分かって安堵より先に終わりを惜しむセリフが漏れそうになる。だけどそれは唾液でベタベタの唇をひき結んで飲み込んだ。
 セックスをしたら解放されるのがこの部屋のルールだ。実にシンプルなこの部屋の唯一無二の法則。
 一度ずつの射精を経て体が治ると二人は粛々と身支度をしてセックスの名残りを服の内側へとしまい込んだ。
 少年は多少惚けた顔をしていたが、やくざの方は拉致した時と変わらぬ不機嫌そうな顔でポケットの中の潰れた紙箱から煙草を取り出して咥える。神の創りし部屋には火事も火災報知器もないので勝手するといい。
 慎重に扉を開けたそこは二人が今朝別れたマンションのエントランス前だ。部屋を出てから時計を見れば分かることだが、時間も別れたその時に巻き戻っている。急げば各々の予定にも間に合うだろう。
 身を寄せ会うようにして外に出ると扉は消え、二人が振り向いた時にはマンションのガラス扉があるばかりだ。
 狐につままれたような顔をして、男はポケットに手を突っ込む。入れていたコンドームがなくなっていることで夢ではなかったと判断し、少年と顔を見合わせて首を傾げた。
 部屋での出来事を振り返ろうとしした矢先に少年の携帯が鳴る。兄弟から帰宅時間の確認だ。そこで時刻に気がついて慌てて解散となった。
 彼らの実験はここまでだ。
 セックスしないと出られない部屋はセックスしたことのない相手同士、もしくはセックスに抵抗感のある複雑な関係の相手と閉じ込め観察するのが基本である。セックスそのものではなく人間の葛藤や混乱ぶりを楽しむものであるからして。
 だから今回のようなパターンは選択ミスと言えるが、なかなか面白いものを見た。
 少年が興奮の合間に疲れて目を閉じている隙に、男が突然斜め上を見上げて中指を立てたのだ。見上げた方向には何もない。天井との境目も曖昧な白い壁があるだけ。
 だが、その時たしかに私はその角度から観察していた。
 神の目はどこにでも存在しうる。別のタイミングではすぐそば、また別のタイミングでは真上から見ていた。人間の目が神の目の所在を追うことは出来ない。
 しかしながら、当てずっぽうか野生の勘か。男は一瞬とはいえ神に向って怒りを露わに喧嘩を売ったのだ。
 冗談さえ飛ばしながら積極的にノルマをこなしたくせに、恋人の痴態を覗く者は神でも殺すという気迫だった。
 愉快愉快。これだからこの遊びはやめられないのだ。