「あのさ、あの……」
寝間着代わりに身につけているジャージのウエストに手をかけたところで腕を掴まれた。今夜は嫌なのかと思って脱がすのを中断し、手を退こうとするとそれもまた止められる。
「あ、あのさ…………」
コイツにしては歯切れ悪く、何か言いたいことがあるんだろうに先が続かない。こっちとしては別にやろうがやるまいが、まだ未練なく中止して眠れる程度の勃起具合だ。
むしろ、その点では二郎の方が困るだろう。服の上から触っただけでも充分その気だった。なのに止めたいのかと思えば。
たっぷり時間をかけて俺がイラつき始めた頃、やっと腹を決めて言葉を続けた。
「最後まで、やんないの……?」
尻すぼみで曖昧な問いかけだ。でも言わんとしていることはわかる。
コイツをベッドに誘って体に触れるようになって随分経つが、ちんぽを手で握り合うだけのガキみたいな触れ合いしかしていなかった。
だってお互い男だ。コイツだって元からゲイってわけじゃない。どうしても男をハメたいとか、ハメられたいとかって思うわけじゃないだろう。なら手間のかかる真似せず、気持ちいいことだけしてやればいい。そう思っていた。
薄手のシャツの腕を頼りなさそうに掴む手にぎゅっと力が入る。
「お前は、ヤリてぇのかよ」
聞くまでもない質問に、また躊躇いを挟んでから小さく顎を引いた。肯定のポーズのまま俯いた頭を片手で抱き寄せた。
◇
ベッドに潜り込んで目の前の首に噛み付き、暖かな肌を舌でなぞりながら股間を弄る。服の上から、反応を見て直に触り、膨らみのない胸や内腿を撫でる。擽ったそうに足を閉じたりはするが抵抗というわけじゃない。わざと弱く撫でていると焦れて腰を押し付けてくることさえある。
逆に強い刺激に腰が逃げれば背後から密着した俺の方へと尻を突き出す格好になる。自分で動いたくせに勃起したものが当たるとまた小さくビクつく。
エロいことすりゃ当たり前に反応はするが、自分が射精することが目的じゃない。自分の下半身は放ったらかしでも構わない。だけど向こうが触りたいというなら好きにさせる。ガキの体ほどには盛り上がっちゃいないが、扱かれりゃ最終的には出る。
要するに相互オナニーだ。何歳も下のガキと。生温くて馬鹿みたいなことをやっている自覚はあるが、部屋に泊まりに来るたび、気が向くたびに体に触ると徐々に抵抗感が薄れて素直に身を委ねるようになってくる。悪くない。
コイツはヤリたい盛りのクセして誰とも経験はないと言っていた。顔も悪くないし人見知りしない性格だから、その気になれば相手はすぐ見つかるだろうに。
俺という他人の手でイクって経験をしても味を占めて他にもっと真っ当で優しい恋人を作る気配もなかった。そんなモンいたら崇拝する兄貴に嘘までついて泊まりがけで通ってこないだろう。
うちに来るときは毎回、友達の家に泊まると言ってやってくる。親に秘密で彼氏とセックスしにくる女みたいだ。実際、泊まりに来ればほぼ毎回手を出しているから似たようなもんではある。
誘えばもう抵抗も躊躇いもない。少し恥ずかしそうにしながら腰に回る手を受け入れて、やんわり握ればすぐ芯を持ち始める。
胸も下と同時に触るうちに反応が良くなって、今じゃちょっと掠めただけで小さな乳首がピンと主張してくる。でもそこだけで満足はできないから、胸ばかり世話しているともどかしそうに足先を擦り合わせて無言の要求をしてくる。
されることに慣れても口でねだるのはまだ恥ずかしいらしい。こっちが自主的にちんぽを握ってやるまで期待と焦燥で小さな脳みそをパンパンにしながら我慢している。
して欲しいならそう言えばいいのに。こんなことならいくらでもしてやる。流石に自分以外の男のものを握ったのはコイツにしてやったのが初めてだったが、多分コイツが自分で扱くよりは上手い。多少なりとも俺に対する好意があるなら尚更悦いだろう。
口で「イイ」とか「嬉しい」とかいう言葉を聞いたことはないが、一度こうなってからは誘って断られたことがないから、それなりに喜んでいるだろうと思っている。本気で嫌がるならいつでもやめる。別にこっちはそれでもいい。他にコイツに何をしてやればいいか分からなくなるっていう、それだけのことだ。
尻が押し付けられたついでで完勃ちには至らない勃起を押し付けていると少し体を離して二郎が肩で振り返った。やりたいことを察して腕を緩めると完全に向き合って、二郎の手が俺の下着の中に潜り込む。やりたくてやっているなら止める理由もない。
好きに扱かせているうちに興が乗って横たえていた体を起こした。二郎の膝の辺りに残っている履き物をすっかり抜き去って足を開かせ、足の間に腰を挟み込む。屈み込むと二本のちんぽが擦れ合った。手に比べれば裏筋しか擦れないが、白い腹の上によだれを垂らしたガキのものに頭を擦り付けている光景は率直にエロくて興奮した。隠すでもなくヘッドボードに投げてある潤滑ゼリーのチューブをとって中身を塗り付け、戸惑う手を引いて二本まとめて握らせる。腰を揺すると手の中で粘性の音がした。
見下ろした二郎の顔はガキのくせに妙な色気がある。外で見せる生意気な表情や同世代のガキ相手に気取る時の面とも違う。多分コイツの兄弟連中も知らない。俺以外は誰も。
深夜にはしゃいでもガキは元気だ。先に起きて簡単に飯をこしらえていた。朝から醤油と出汁のあまじょっぱい匂いが部屋に満ちている。カウンターキッチンの内側を覗くと冷蔵庫に残っていた野菜だのきのこだのを手当たり次第に刻んで鶏肉と一緒に卵とじしている。在庫処分丼だ。
そこまでは珍しくないが、今朝は着替えまで済ませていた。いつもは寝間着のままうろうろして、出かける直前にやっと着替えている。
ソファで用意された飯に手を付けながら尋ねると、
「言ってなかったっけ?今日バイトがあんだよ。昼からだけど、家帰って風呂浴びてから行くから」
「バイト?」
金には不自由しているくせにクソ兄貴の仕事の手伝い優先で定期的なバイトは抱えていないはずだ。だから時々小遣い稼ぎに一日二日で終わる仕事をくれてやることもある。屋台の店番や真っ当な掃除作業なんかの兄貴に言える仕事だ。こっちもフットワークが軽くて話の早い労働力は使い勝手がいいし、少ないバイト代で懐事情を握れるんだから使わない手はない。その辺のファストフードで芋を揚げるより時給はいいしお互いの利害は一致する。こちらの事情は言わないが。
ちょくちょく仕事を斡旋しているお陰で家業以外のバイトをするなんて話は初めて聞いた。
「バイト、つっても今日だけなんだけどさ。ちょっとだけ広告のモデルやってみないかって話があって」
「そりゃまた随分調子こいたバイトだな」
「うっせーな。別にやりたくてやるんじゃねぇし!……結構金がいいんだよ。うちは生活はできてっけど、三郎が進学する時なんかいっぱい金かかるじゃん?俺は別に頭悪ぃからいいけど、三郎ぐらいはしっかり勉強させて好きな仕事させてやりたいからって、兄ちゃんちょっとずつ貯めてんの知ってるからさ。何か足しになればいいと思って」
茶化すつもりで絡んだのに一気に冷めた。これまでより実入りのいい仕事を手配する案もあるが、仕事内容と金額が釣り合う案件は大体家族に言えない仕事になる。それに比べれば広告なんて打つ堅気の雇い主の下で兄弟公認でやる仕事の方が何十倍も健全だった。
モデルっていうのも恐らく怪しいスカウトなんかじゃない。ヨコハマはそれぞれの職業柄、くだらない依頼が来ることはないが、呑気な女連中にとってタレント同然のディビジョン代表にはイベント出演や雑誌取材なんかの依頼が回ってくる。まともなコンセプトの雑誌取材なら本業に影響しない範囲内で受けている奴の方が多い。
かといって、本格的にタレントのような活動に乗り出すと面倒事が増えるのは目に見えている。正直なところ、広告モデルの仕事は損か得か微妙なラインだろう。一郎が今回の話を許可したとすれば弟の学費のためという二郎の気持ちを酌んだ結果だろうということは容易に察しがついた。アレが許したなら内容だってヤバイもんじゃない。
「せいぜい頑張れや」
「うーん」
あまり気乗りはしないようだった。イケブクロの不良を束ねている身分でチャラついた仕事をやるんだから葛藤もあるだろう。この調子じゃ二度目はない。
いつもより早い出発を適当に見送って布団に戻った。午前中の予定が空いたから寝直す。
馴染みの女からのメールで目が覚めた。風俗店の女で、要は営業メールだ。
どうせ今日は他に予定もない。一人ではまともに食う気にもなれなくて同伴出勤の誘いに応じることにした。
待ち合わせ場所に出向くと女は、
「なんだか久しぶり。最近あんまりお店に来てくれなかったから」
あざとく拗ねた顔を作って見せた。
言われて風俗街からほんの少しだけ遠ざかっていたことに気がついた。仕事では以前と変わらずに出入りしているし飲み屋には変わらず通っていたが、今日の女は週末にだけ出勤している女だ。
二郎が部屋を訪れるようになってからは確かに会っていなかった。たまたま二郎が来るのが週末で、女の出勤日と被っていただけだが。二郎が来るから女に会わなかったなんて言い方をするとまるであの子供が女の代わりになっているみたいでおかしかった。
代わりなんてつもりはない。部屋に泊めるたびに二郎がベッドに潜り込んでくるから抱えて眠っているが、当然アレは奉仕の仕方も知らないし抱かれたいわけじゃないだろう。こっちから触ってやると喜ぶ、本当のところは知らないがそう見えるから続けているに過ぎない。そういうんじゃない。会う目的が違う。
そんなガキのために女を抱く回数が減っているのもおかしなもんだ。こうして実際に女と会えばちょっと肩を抱くだけで甘い匂いがする。小柄で柔らかくて納まりがいい。抱え込むのにちょうどいい体だ。
昨夜もアレと一緒に寝たからといって女に興味がなくなったわけじゃない。本来的に男なんか抱く趣味はない。適当に女の話に相槌を打って酒を飲んでいると妙な安心感すらある。自宅で男二人で食事するよりこっちの方が日常だ。二郎との時間はまだどこかぎこちなさがある。ベッドの中のことも含めて。
食事が終わる頃に女が化粧室に向かった、その間にメッセージ通知があった。二郎だった。
バイトがあると言って朝のうちに帰って行ったが、終わったんだろうか。二郎が金曜の夜にヨコハマに来るときはこれぐらいの時刻にイケブクロを出てくる。用が済んだからこれからもう一度来るって話か。
ディスプレイに表示された“山田二郎”の名前をしばらく眺めてから携帯のロックを解除してメッセージアプリを確認した。仕事の話だった。
どちらかと言えば俺の得になる話だったが、ほとんど無意識に舌打ちして発信ボタンをタップする
「お前バイトじゃなかったのか」
『バイトはもう終わったんだよ。で、ちょっと色々あって、薬物所持して女追っかけてる連中捕まえたから引き取りにこねぇかと思ってさ。要らねぇなら警察に回すけど、どうせ薬物っつったらアイツが来んだろ?』
アイツってのは銃兎のことだ。イケブクロで起きた事件ならイケブクロ署の管轄になるが、先刻のメッセージによればヨコハマの人間らしい。ヨコハマ署に薬中を捕まえただなんて通報すれば嬉々としてやってくるだろう。だが二郎はアイツとは反りが合わないから警察の代わりにこちらに振ってくる。こちらとしてもシマを荒らしたとなれば付けさせるべきケジメってものがあるし、詳しく聞いた結果銃兎に売り渡す決断をしても貸しを作れる。損はない。
「まあな。誰かすぐ向かわせるから逃げないようにだけして転がしとけ」
灰皿に煙草の灰を落として告げ、ヒールの音で女が戻ってきたのに気が付いて振り返る。そのまま通話を切り上げようとしたところ、
『アンタは来ねぇの?』
なんとなく寂しそうに聞こえて一瞬返事を躊躇った。多分気のせいだ。
戻ってきた女は向かいの席に回り込んで座りながら「今ねぇ」なんて話をしようとして、電話中と気づいてすぐに言葉を止めた。指に煙草を挟んだ方の手で気にしなくていいと合図して電話口に返す。
「俺様は休みだって知ってんだろうがよ」
『はいはい』
「……お前はどうすんだ」
目の前に座って電話の終わりを待つ女をちらりと見て尋ねた。聞かれたから聞き返しただけだ。他意はない。
『どうするって、んー……仲間と手分けして保護した子達送ってから帰って兄ちゃんにバイトの報告』
つまらない答えが返ってくる。ガキの遣いじゃあるまいし、いちいちバイトの報告なんて要らないだろう。
クソ野郎の名前を聞いたら腹が立ってきたからさっさと通話を切った。
携帯をポケットにねじ込んで立つと女が話を再開し、寄り添って立てば香水の匂いがする。現実に戻ってきたような、小さな安堵がある。まさか、あのガキの言動で不安になる要素なんかないのに。
よっぽど一郎の名が癇に障ったんだと自分の中で理由をつけて気にするのをやめた。どうせ自分はこれから女の店へ行くし、アレも暇じゃない。休日のやり直しはない。
件の広告を実際見たのはシンジュクだった。
所用があったシンジュクへは舎弟の運転する車で向かい、近くまで来たついでに寂雷先生の病院に顔を出した。病院は相変わらずの盛況で、手が空くまで待つことを伝えて一度外に出たがあまりかからず呼び戻された。相変わらず仕事が早い。
挨拶といってもあと二週間で次のテリトリーバトルが開催される。先生の休憩がてら少し話して終わりだ。長居はしない。
出されたカップのコーヒーがなくなったところで腰を上げると、思い出したように先生が言った。
「そうだ。左馬刻くんはまだ見ていないかな。帰りに駅に寄るといいよ」
「駅に何があんだよ」
「二郎くんの広告だよ。結構大きく張り出されてるんだけどね、ヨコハマには張り出されないだろう?」
「ああ」
言われるまで忘れていた。二郎とは定期的に顔を合わせていても話題にも上らないし、俺とアイツが懇意にしているのを知っている人間はヨコハマの人間ばかりだった。まさか先生から聞かされるとは思わなかったが。
あまり見たいとも思わなかったものの、他でもない先生の勧めだ。迎えの車を駅近くに待機させて構内を歩いた。
いつも車移動だから駅には縁がない。ヨコハマ駅ならまだしも他所の縄張りでわざわざ駅内部に入る用事がなかった。久しぶりの駅構内は記憶にあるより小ぎれいになっていたが、先生から言われた通路までは難なくたどり着いた。
広い壁にいくつか並ぶ広告の、一番奥の一枚の前で女の集団が立ち止まって携帯のカメラを向けていた。多分アレだ。遠目にも分かって羽織ってきたモッズコートのフードを目深に被る。通行人に見つかれば厄介だ。
一目見て駅を出るつもりで、張り出されたポスターよりその前に立ち止まる人間を眺めながら歩き始めた。そうすると足を止めているのが女だけじゃないとわかる。若い男や、歳のいったサラリーマンにも足を止め、女のはしゃぐ声に押されて立ち去る者がいた。
こうした派手な広告仕事を引き受ける代表は珍しいからか。その広告の正面に来るまではその程度に考えていた。クライアント企業だって飲料メーカーや製菓メーカーか、スポーツメーカーかメンズブランドか。そうでなければオーディオメーカーなんかだと思っていた。若さや元気な爽やかさを押し出した通り一遍のつまらない企画だと予想して尋ねることもしなかった。
「なんかさぁ、二郎くんてこんな大人っぽかったっけ」
近くでポスターを写真に収めていた女が友人に向けて言う。大きなポスターの全容をカメラに収めようとする人で広告の目の前から一定距離を置いたところに人の囲いが出来ていた。その後ろで、通り過ぎざまに一目見るだけのつもりだった足が止まる。
それは化粧品メーカーの広告だった。カメラに薄く筋肉のついた背中を向けて振り返るところを切り取った飾り気のない写真を大きく使ったシンプルな構成で、メーカー定番のキャチコピー以外はテキストも余計な装飾もない。
薄いシャツの上からでもわかる上背に釣り合わない薄っぺらい体のシルエットや、シャツの襟ぐりから覗く浮いた背骨。自然に曲げられた肩から腕の筋肉に柔らかな影が落ちて未完成な体躯を光の加減で丁寧に写し取っている。シャツの隙間から見える滑らかな肌を目で追うと無造作に首に落ちる黒い髪。顔に細い毛束が落ちて、それを払うように頬に指が添えられている。尻下がりの特徴的な瞳は長いまつ毛の下で光を反射しながらこちらを、カメラを見ていた。勝負の舞台で見せる燃えるような眼差しじゃなく、静止画なのに揺らいで見えるような、そんな眼で。
何がカッコいいだ。こんなの駅に堂々貼るような代物じゃない。週刊誌のグラビアがお似合いだ。
足を止めた何人がそういうつもりでこれを見たのかは分からないが、このシャッターを切って宣材に起用した人間は間違いなく山田二郎をいかがわしい目で見ている。アイツをそういう目で見ていればそうとわかるが、そうでなけりゃただの“大人っぽく”て“カッコいい”写真かもしれない。だけど女子高生モデルを使って同じような写真を撮ったらとてもじゃないが企業のイメージとして表に出せない。女のことをエロい目で見る人間は多いからすぐにスケベ心を見抜かれる。
写真集にでも収めるグラビアならいざ知らず、駅で見せびらかすポスターに相応しい写真じゃない。アートと呼べば許されるだけのポルノだ。
こんなのは健康的で粗暴な男を媒体にしたから許されているが、俺から見れば完全にアウトだ。アイツのガキくささに紛れていた色気をひけらかして、この写真の前で立ち止まった男連中の中にあるアリかナシかの基準を“アリ”の方に切り替えやがる。
そういうのはこれまでの世の中ならほとんど女の役回りだった。ほとんどの男は目に付く男に対し、いちいち抱けるかどうかのジャッジを下さない。だけど女性政権が発足して高い壁の中に女が集中して以降、じわじわ変わっていく壁の外の世界では事情が変わって来た。
中性的な男や小柄、弱そうな男を女の代替品として見る奴が増えた。だけどアイツは小柄でもないし喧嘩もやる。黙ってりゃそれなりでも黙っていないから大丈夫だと。多少見た目が良くても喋って動けば色気の欠片もないクソガキだから、本質を分かっているのは俺だけだと思っていた。
モデルなんて言ってもまだ未成年だし芸能人というわけでもない素人のガキがこんな風に注目されるなんて予想もしなかった。
テリトリーバトル一週間前。そろそろ何か連絡があってもいい頃合いだった。この時期は何かしら理由を見つけて二郎がヨコハマにやってくる。
部屋に上がることを許す前、事務所に顔を出すばかりだった頃からそうだ。
だからなんとなく携帯を気にしていたが、今月はまだ連絡がなかった。別に連絡を寄越すだけの用事がないのかもしれないが、どうにもあの広告のことが頭にチラついて離れない。
変に目立ったせいで余計な連中との付き合いが増えて時間を取られてるんじゃないか、また新しくチャラついたバイトを入れたんじゃないか。
無性にイラついたところでこっちが文句を言う筋合いじゃない。溜め込んだストレス解消がてら体を動かす仕事を選んで消化していたら警察に囲まれてヨコハマ署内の別荘に案内され、見飽きた眼鏡を呼び出して釈放させた。
今回の借りはこの間違法薬物常習者を何人かくれてやったのでチャラだろうに、小うるさく説教しようとするから飲み屋で聞くことにして夕飯がてら行きつけの高級クラブに連れてきた。
経営するなら売り上げはキャバクラの方がいいが、客として行くならクラブの方が静かでいい。カウンターに座って一声かければ放っておいてくれるし、バーに比べて自由が効いた。
腹が減ったから出前のメニュー表を頼む。大体こう言う店は出前可能な近隣店舗のメニュー表を持っている。
ざっと見て、カツ丼を選んだ。警察署帰りだからだ。ボーイを捕まえて頼むとボーイがカウンター奥で定食屋に電話をかけ、伝票に出前の料金が追記される。
「結構本格的に食うんだな。夕飯なんて酒のつまみ程度かと思ったぞ」
届いた丼を見て銃兎が細い眉を片方ヒョイッとあげる。
近くにいたベテランホステスも通りがかりに足を止めた。
「あら、ほんとにご飯食べるの?珍しーい」
「古いドラマみたいに取調室でカツ丼が出てくりゃつまみで済んだんだがな」
「今でも頼めないことはないが、アレは結局食った人間の実費なんだよ。あとで請求していいならいつでもとってやるが?」
「冗談じゃねぇ」
ホステスは笑ってボックス席に戻っていった。
例の広告が頭から抜けていかないせいでアレがバイトの朝に作った飯を思い出しただけだ。自分だってジャンクフードが好きなくせに俺が酒ばかり飲んでいるとちゃんとした飯を食わせたがる。親みたいに口うるさいところだけは妹みたいだ。
カウンターの向こうから新しいおしぼりと割りばしが置かれ、箸を割る。カツの切れ目に沿って卵を割いてひと切れ口に運んだ。下に敷かれている千切りの玉ねぎが顔を出す。カツ丼の中身ってのはいつだって玉ねぎだ。店で出てくるのも、妹が作ったものも。
「おい、銃兎」
「なんだよ」
「親子にキノコって入れるか?」
「親子丼?まあ、入れることもあるんじゃないか?」
「じゃあ小松菜は」
「何の話だよ」
「実家や自分で作るときに入れるかどうか聞いてんだよ」
「親子丼だろう?……あんまり入れないんじゃねぇか」
律儀に考えてから返事をくれる。目の前のどんぶりにおかしなものが入っていたか勘繰って、ちらりとカツ丼を覗いたがお決まりの玉ねぎしかなかった。ますます変な顔をする銃兎の様子がおかしくて鼻で笑って、定食屋が定番の材料と味付けで作ったカツ丼を頬張った。
俺の知る中でも在庫処分丼をやるのはアイツぐらいだった。わざわざ人の家に来て炊事するとなれば、もっと立派なものを作ろうとするんじゃないか。だけど二郎はそういうところで媚びる気がない。見た目や地位に惹かれて来た人間ががっかりするような所帯染みた行動を平気でやる。
例の広告のせいで多少騒がれたってメッキが剥げるのはすぐだ。丼をつつきながら二郎のダサいところをいくつか思い浮かべたらいくらか気が晴れた。腹が膨れると気分もマシになる。
空になった丼を下げさせて手酌で酒を飲み始めてからしばらくして新しい客が入店した。一応一瞥して顔を確かめたが知らない奴だと思った。だけど面識があったらしい。
一度ボックス席に案内されて座った男がこちらを見つけていそいそとカウンター席の横までやってきた。近くに来た浅黒い顔を改めてみても憶えがない。大した接点はない人間だ。
それでも男はどこで出会ったかよく覚えているようで、やけに親し気な笑顔で話しかけてきた。面倒極まりない。勿論銃兎は知らん顔だ。
「左馬刻さん、ご無沙汰してます」
「……すまねぇがどちらさんだかわからねぇな」
「ああ、そうですよね。すいません。前に稲辺さんとこの集まりでお会いしたんですが」
言われて名刺を渡されても分からなかった。個別に殴った人間の顔もろくに覚えちゃいないんだから集まりでちょっと顔を合わせただけの男を記憶しているはずがない。
こちらのリアクションが薄くても男はめげなかった。頭が悪いらしい。許可もとらずに隣のスツールに浅く腰を掛けてカウンターに肘を置く。
「この間のバトル見ましたよ。残念でしたねぇ。いや私はヨコハマの勝ちだと思ったんですが」
俺の向こう側にいる銃兎にも目くばせしたが、奴は徹底して関わる気がない。無言で愛想程度に会釈して終わりだ。飲み干したグラスを置いてカウンターにいた若いホステスに面倒くさいカクテルを頼んだ。狙い通りすぐにはどんな酒か伝わらなくて、ボーイを呼んで再度説明する手間を作り出した。その間こちらは一切見ない。
小賢しい連れに舌打ちして鬱陶しく話しかけてくる男に返す。
「終わったバトルの結果に四の五の言う奴と酒を飲む趣味はねぇよ」
「はは……そりゃすいません。まあ次は大丈夫ですよ。あ、ほら、あれ。見ました?イケブクロの二番目の……」
その辺で見かねたホステスが口を挟む。女の方がずっと賢い。
「戸木さん、お席戻りましょうよぉ」
「ああ、ごめんね。こっちに移動するよ」
男はつける薬のないバカだった。ホステスに困った目を向けられ黙殺したらホステスは待機を選択して男のグラスを移動してこなかった。こういう頭のいい女が揃っているからこの店は気に入っている。客層はイマイチのようだが。
「アレ見ました?駅に貼ってある大きなポスター。ヨコハマにはないんですけどね、SNSにいっぱい写真が流れてますよ」
「へぇ、それがどうしたって?」
長くなった煙草の灰を落として相槌を打つと男は嬉々として自分のスマホでSNSアプリを開き、“山田二郎”と検索する。
隣で店員と話していた銃兎が小声で「左馬刻」と諌めるように名前を呼んだが無視した。
検索バーに名前を入れるとサジェストで“ポスター”だの“バスブロ”だの広告スポンサーの名前だのに混じって“エロい”なんてワードも出てきた。本名を隠してネット上で騒ぎ立てる連中はいつでも言いたい放題だ。相手がグラビアモデルでもなんでもない素人の未成年でもお構いなしだ。これが実入りのいいバイトの代償なら俺が斡旋できる金のいいバイトとどちらがマシか分からない。アレのクソ兄貴はここまで予想しなかったんだろう。同じメーカーの広告はこれまで女性モデルばかりで、最近は特に中王区の女に媚びたこざっぱりして強いイメージの画が多かった。わざわざ男子高生を起用して色気を全面に押し出した広告を作るなんて思わない。
画像に絞り込んで検索した結果は見覚えのあるポスターを携帯で撮影した画像で溢れかえっていた。周辺視野で浅黒い顔が下衆な笑いに歪む。
「すごい騒ぎでしょう?ディビジョン代表を足掛かりにアイドルデビューでも企んでるんですかねぇ。いい金にはなりそうですけど。どうもね、女より男の方にウケてるらしいんで、中王区でのバトルの足しにはならんでしょうけどね」
よくこういう勘違い野郎がいるが、テリトリーバトルはただの人気取り勝負じゃない。決められたバース内でどちらも膝を折らなければ女たちのジャッジに委ねられるが、女ウケするヤツが勝てるとは限らない。
黙って聞いていれば丸い指が写りのいいサムネイルを一つ選んで拡大表示した。小さな画面は男の方を向いていて、しおらしい表情の二郎の視線はこちらを向かない。
「確かにガキのクセしてエロい顔してますけど」
うっかり顔を上げた際に気持ちの悪いニヤケ面が目に入って手近にあったグラスを掴んだ。
「おい左馬刻ッ!」
銃兎が止めようと伸ばした手が触れる前に男の頭の上で酒をひっくり返す。髪を伝った液体はスマホの画面まで垂れた。そのまま隙間にしみ込めばいいものを、昨今の携帯電話は防水機能なんてものがついていたりする。
「おっと、すまねぇな。話があんまつまんねぇんで手が滑ったわ」
グラスをカウンターに戻してスツールを立った。財布から適当に札を抜いて銃兎の前に置く。深いため息だけで説教はなかった。
出口に向かう背中でバカ男の唸りと銃兎の声が聞こえる。
「命があっただけ運が良かったですね」
この店はオーナーとも懇意にしているからあまり迷惑はかけられない。
折角マシな心地で帰れそうだったのに犬の糞でも踏んだような気分だ。
もう一軒、今度はバカのいない店に行こうと酔っ払いだらけの雑踏を歩く。でもどこにだっておかしな奴はいる。だからといって誰もいない、マスターとサシで飲むような店も気分じゃなかった。程よく他人の気配が欲しい。
希望が満たされずにむしゃくしゃしていた。丁度よく暴れている酔っ払いでもいたら殴る口実ができたのに、こういう時に限ってみんな行儀良く夜を楽しんでいる。
「チッ」
隅々まで知る街なのにどこにも居場所がない。行きたい場所が見当たらない。
目的地を定めずしばらく歩いている途中、酔っぱらった女が他の酔っぱらいにぶつかって転げるようにしてこちらに歩いてきたのとぶつかった。泥酔するには早い時間だ。
どんな不注意女かと思って顔を見ると、見知った店の女だった。向こうも焦って謝りながら顔を上げ、俺だと分かると体重を預けたまま手を振った。
「やーだ、左馬刻さーん。お一人ですかぁ?」
「何やってんだ。お前こそ一人なのか?」
連れがいるなら世話を任せようと思って辺りを見たが見つからなかった。遠巻きに見ながら通り過ぎる人間ばっかりだ。
「そーなんですよ、予定狂っちゃってぇ。左馬刻さん一緒にもう一軒行きません?ホテルでもいーよぉ」
言って自分で笑っている。面倒なのを拾ってしまったが、どうせアテもなく入る店を探していたところだ。ちゃっかり腕に絡みついているのをしっかり立たせて近場でなるべく落ち着いたバーを選んで落ち着いた。
完全に正体をなくしたらいよいよ厄介だ。酒は注文させなかった。
まとまりなく溢れてくる話を聞くと、どうもデート相手に振られたらしい。
「で、ヤケ酒食らってこの有様か」
「え。これは相手の人といる時に景気付けに飲んだんですけどぉ」
「ナメてんのか」
今夜は頭の悪い奴とばっかり遭遇する。女の話を聞いていたらバカバカしくなってきた。
多少落ち着いた頃合いを見計らって店を出る。不安なく歩けるようになっても女は腕にくっついていた。
空車のタクシーが待機している辺りに出て適当な車に近づくと、それまで大人しく歩いていた女が足を止めた。
「ねぇ、ホテル行きましょうよ」
拾った直後のような酔い具合なら断ったが、もう自分で笑い転げたりしなかった。
「一人で帰りたくない」
抱えた腕を胸の間で挟んでギュッと抱きしめられる。利害は一致する。誘いに乗ってもいいかと思った。
その軽薄さを咎めるみたいに携帯が鳴る。
「ちっと待ってろ」
女を引き剥がしてポケットからスマホを取り出し、相手を確認した。つまらない用事だったらそのまま無視するつもりで。
相手は、二郎だった。これからこちらへ来るには遅い時間帯だったから、もう今日は来ないものだと思っていた。今週はたまたま言いつける用事がなかったからこっちからも連絡しなかったし、お互い用がなければ簡単に連絡が途切れる。そんな仲だ。
だけど、これまでのペースから行くと今夜あたり約束があってもおかしくなかった。
電話に出る。
『遅くにごめん、この間報告書渡した依頼の件でさ、また西口の店に久米組のヤツが出入りしてるって情報入って……』
「おう」
『それで何枚か写真確保したんだけど、来週になると面倒だろ。これから、届けようか?』
来週はもうテリトリーバトル直前だ。とはいえ写真くらい、携帯で撮って送ればいい話だ。なんでもデータでやり取りできる。セキュリティがどうこう気にするほどの話でもない。
それをこんな遅くにわざわざ出向くっていうのは、つまりは部屋に来る口実だ。分かってる。こっちだって電話やメッセージアプリで事足りる案件で呼び出すし、それをアイツも「電話で済ませろ」なんて言わない。
今夜を過ぎたら次に会うのは中王区。終わってすぐは街も、自分たちの気持ちもささくれ立つ。冷却期間としてもう一週間くらいは距離を置くから半月会わないことになる。
電話を取った時から何か察して冷めた目をしていた女の頭をひと撫でした。
「わかった。事務所の方はもう誰もいねぇからうちの方に直接来い」
電話を切ってタクシーに近づくと今度は女も付いてきた。
「すまねぇな。気をつけて帰れ」
「はぁい」
タクシー代を握らせると不貞腐れた子供みたいな返事をして、それでも素直に車に乗り込んだ。
「帰ってからまた深酒すんなよ」
「もー、わかってますぅ!おやすみなさい!」
自分で勢いよく扉を閉め、女は帰っていった。あれだけ元気なら心配は要らないだろう。
見送ってから別に車を確保してマンションの住所を告げた。
帰宅して風呂を済ませ、銃兎からの電話に応じて文句を聞いている間にインターホンが鳴って二郎が来た。いつもバイクでやってくるが、ちょうど到着する少し前に天気予報が外れて雨が降り出したらしい。ヘルメットで隠れた頭のてっぺん以外水気を含んだ格好だったから玄関から脱衣所に直行で脱いだ靴下を洗濯機に放り込み、それからリビングで背負っていたリュックサックを下ろす。
俺が電話中と見ると黙ってその辺に脱ぎ散らかしてある俺の服を回収し、リュックサックの中の着替えを抱えて脱衣所に戻っていく。洗濯機を回すつもりだ。そのまま見送って電話を終えると一服して、風呂が済むのを待ってからキッチンに残っていた食料を夜食と酒のつまみにして小腹を満たしてから寝室に引っ込んだ。
いつもならうちに来る前に家で夕飯を済ませてきたって移動の間に腹が減るとか言って遠慮なく間食するのに今夜はやけに大人しい。脳は無意識に先日公開された広告の件といつもと違う今日の様子を関連付けようとする。
広告のせいで何かあったんだろうか。コイツはあまり俺を頼らない。困ったことがあっても自分の立場をわかっていて一線引いている。こちらにも求められていないことをやる通りはない。
いつになく静かな晩酌が居心地悪くて早々に店じまいにした。まだ長さのある煙草を灰皿に押し付けると二郎もつまみの皿を片付けてこの家にひとつしかないベッドに入る。
他人と同じベッドに入った後のことはルーチンワークだ。二郎でも、外の女でも。相手によってやることに多少の違いはあってもお互い同じ目的でそこにいる。やりたくなきゃ誘わないし、こんな男と分かっていてついてくる女はノーとは言わない。
まだ何か考えている二郎のことが気に入らなくて、遊びを省いて最初から弱いところばかり触った。息を詰めて刺激に耐える姿にほんの少しばかり溜飲を下げて攻め手を緩めたのも一時のこと。下着が汚れる前に脱がそうとした手を止められた。拒絶らしい行動は一番最初の頃以来だ。何か新しいことをするたびに羞恥で及び腰になるのに逃げられない。セックスだけじゃなくて何に対してもそうだ。自分に厳しいクソ兄貴の教育の賜物で何にでも正面からぶち当たることしか知らない。
こっちが「やめてもいい」と選択肢を与えてもそれが逃げと思えば絶対に選べない。損な性分だ。
それがストップをかけたんだからいよいよ何かあったのかと考える。周りの見る目が変われば短期間でも色々なことが起こる。
それでも止めて欲しいというならやめるつもりだった。支配したいのは体じゃない。
腕を掴んで言葉を待った。だけどどんな言いづらい話が待っているのか、なかなか言葉は出てこなかった。ぐずぐず言いよどむのを待っていると嫌な想像ばかり広がっていく。時間にしてほんの数秒でも俺にしては褒めて欲しいぐらいの我慢でもって待った。
これ以上待たせるなら今夜は同じ家の中にいるだけでいい。一人でソファで寝ようかと手を振り払いかけた時になってやっと喉でつかえていたセリフが聞こえてくる。
力のない絞り出すような声だ。
「最後まで、やんないの……?」
「あ?」
咄嗟に眉間にしわを寄せてしまったのは完全に癖だが、悩んだ分だけの覚悟を決めた側には拒絶に見えたらしい。目元に力が入って左右色違いの目が潤んだかと思った。実際にはそう簡単に泣き出したりしなかったが、瞬間的な絶望が見えた。
違う、嫌がったわけじゃない。俺の態度に返す次の言葉を探しあぐねて腕を掴んだままの手に力が入った。
努めて怒っている風に見えないよう眉間の力を逃がす。小さな子供相手にやるような努力だ。
「お前は、ヤリてぇのかよ」
逃げるのが不得意なガキは真っ赤になっても気丈に顔を上げていたが確認の質問に頷いたところでついに顔を伏せた。逃げは男らしくないとかいうスパルタ教育もここらが限界だ。セックスは喧嘩じゃないからメンチ切っておっぱじめるもんでもない。
抱き寄せた頭を慰めに撫でながらもう一つ確認を取る。この期に及んで揉めるのは面倒だ。
「言っとくが、俺はケツは貸さねぇぞ」
「……………………………………いい」
結構間があった。だが男に二言はなしだ。
伏せた顔に片手を添えて親指で髪を掬い耳を撫でる。頬を包んであげさせれば真っ赤な顔で睨まれた。俺も態度に関しては人のことを言えないがコイツもコイツだ。誘うならもっと相応の態度ってもんがあるだろう。
そこでふと駅に張り出された広告やネットでの書き込みを思い出し、内心で首を振った。アレを見てエロいだとか、抜けるだとか言う連中がどんな妄想をしようともきっと全部ハズレだ。
このガキが抱いてくれって言うときはあんな大人びた顔はしない。プライドと不安と羞恥で限界だって顔で睨むみたいに見つめてくるんだ。それはどんな妄想より、広告の写真よりずっとクる。
引き結ばれた唇を舌先で解きながら襟足を梳いて首筋、背骨を指で撫で降りて尻を柔らかくつかむ。改めてこれからすることを意識して竦んだ体を両腕で抱きしめた。