ふたりぼっち-旅の記録/さまじろ/18枚

ふたりで高飛びして世界放浪するふたりぼっちシリーズのショートショートです。
SS名刺メーカー様を使用して画像化しています。

ハガキ印刷用PDF(148×100)
旅の記録1-56-1011-1516-20
素材配布元:Pixabay

 ステージへのお誘いは大歓迎。リスペクトできるヤバいMCたちの誘いなら尚更。
「だけど俺たちお尋ね者だぜ?」
 尋ねるとフロントマンが笑う。
「箱のオーナーが憎んでるジャンキー以外なら問題ないさ。曲は、そうだな、N.W.AのFuck the policeなんてどう?」
 そりゃいい、とソファで煙草を吹かしていた左馬刻が笑い声を立てる。今頃日本で眼鏡野郎がくしゃみしてるぜ。

—-『ライブへご招待』

「あの厄介なゴロツキ達、今朝方警察署の前に縛られて放置されてたそうよ。誰がやってくれたのかしら」
 興奮気味に旦那と話していた女将が振り返り、俺達の朝飯の皿を回収して言いつける。
「アンタ達、食べ終わったなら宿賃分働くのよ。裏口で鶏を絞めてちょうだいな」
「嘘だろ!別の仕事にしてくれよババア!」
「うるさいわね穀潰し!」
 だって俺ら、鶏より悪党〆る方が得意なんだよ。
—-『一宿一飯の恩』

「いいこと?ウチのママはゲイが嫌いなの。昔からボーイフレンドをゲイに奪われてたからよ。でもね、アタシはアンタの顔が好きだから……ちょっと、無視しないで聞いてったら!だからね、ママにはアンタ達のこと、実は嘘の罪で国を追われてカップルのフリして逃亡中なのよって言っておいたから。遠慮なくアタシと仲良くしなさい」
 そう言ったおさげのアン。勘のいいアン。似た者親子のママとこれからも仲良く暮らせよな。
—-『ママは隣人が嫌い』


 目の前から消えず、健やかでいてほしい。なるべく長く、部屋に来て口うるさいことを言いながら美味い飯作って同じ食卓を囲んで欲しい。それ以外のことを束縛したいわけじゃなかった。最初は。
 朝、アイツが家に帰った後。ベッドで二度寝して起きるとなんとなく一人分のスペースを空けてしまっていることがよくあった。
 この部屋はあの頃のマンションの寝室に似てる。濃い色のカーテン、飾り気のない壁、差し込む朝日にきらめく埃。
 夢と混ざり合った現実を確かめるべくシーツを叩くと、テーブルに飲みかけのグラスを置いて腕の中に戻ってくる。昔の夢より欲深い現実が。
—-『今はここが家だから』
 

「お兄ちゃん、次あのお話がいい」
 見かけによらないと言われるが、童話はいくつも暗記している。小さな頃に妹と布団を並べて、明かりを消した部屋で絵本を開く代わりに語って聞かせたからだ。眠れるまで何度も強請られた。
「次アレがいいな、ほら、あの……」
 今は頭の中で絵本をめくる代わりにレコードを再生する。同じ寝床の中に歌を欲しがるヤツがいるからだ。
—-『毎夜眠りにつくまで』
 

  だから言ったじゃん。絶対いつか役に立つってさ。アンタはすぐガラクタを持ちたがるなって言うけど俺だってちゃんと選んでるわけ。
 夏だ!海だ!海水浴だ!
 貴重品であるヒプノシスマイクを防水ケースに入れて腰に巻き付け、岩場から真っ青な海に飛び込んだ。同じような装備の左馬刻が岩の端っこにしゃがんで煙草をふかしながら冷たい目でこっちを見てるけど、そんなもんじゃこの暑さは凌げない。
「カッコつけてないでアンタも飛び込んじゃえよ!」
 腕を目いっぱい使って海水を跳ね上げると上手いこと顔まで届いて煙草を濡らす。
「てンめ……ふざけんなよ!」
 やっとこっちへ来た。
 ほら、涼しくて最高だろ!
—-『防水マイクケース』


 今日も始まったぜおはようイケブクロ。まずはメールを紹介するぜ。海外在住の『寿司食いたい』さんから。
『一郎さんおはブクロ!いつもネット配信で聴いてます。一郎さんが出演したPラッパーズストリートの映画、早速観て来ました。最高でした!現在旅行中で映画に行く予定はなかったのですが、喧嘩していたツレが予定変更して連れて行ってくれたんです。仲直りも出来ていい思い出になりました』
 というわけで、旅先からありがとう!残りの旅も最高の思い出になることを日本から祈ってるぜ。道中気をつけてな!それじゃあここで一曲。『寿司食いたい』さんからのリクエストでBusterBros!!!、IWGP。
—-『おはようイケブクロ』

 
 見るもの全てが珍しい異国の地で、いつ目が覚めても側にこの男がいる。会いにいかなくてもすぐそこにいる。写真の中のような街で女に誘われても断ってしまう。俺の肩を抱いて。
 この三ヶ月、一晩たりともこの人を他の誰かに譲らなくていいなんて。一人で眠る日に見る夢みたいだ。
—-『我慢はおわり』

 


「ありがとう。上手に撮れてるわ」
「どういたしまして。旅行?」
「ええ、新婚旅行なの。貴方達は?」
「俺たちもだよ」
 まあ、と彼女は微笑んだ。
「貴方達も末永くお幸せにね」
—-『新婚旅行15年目』

 


 餃子、春巻、小籠包。サソリフライを挟んでフカヒレに串焼き。赤提灯の下をブラついて匂いと勘を頼りに飛び込み「コレ」と指差し「二人分」と二本指を立てる。中華は日本でも馴染み深い。先週までいた国でメニューを見ても味の検討がつかず毎回くじ引き感覚で料理をオーダーしていたのに比べると安心感があった。
「あとは肉まんだな」
「お前豚にでもなるつもりか」
 早速買って肉まん両手に拗ねた顔の二郎が振り返った時、既視感に襲われた。二郎も破顔して、
「なんか懐かしいな」
 ああ、あの時はこんなに暇じゃなくて食後の約束に遅れて仲間に怒られたもんだが。今はもう善隣門で待つ人はいない。
—-『中華街』
☆中華街の写真はたまこさんから頂きました!


 追っ手から逃れて廃屋に潜り込んだ。雨風と人目を避けられれば何でもよく、闇の中で近くの椅子らしきものの陰に座り込んで交代で眠り、冷えた体を寄せ合って朝を迎える。
 薄っすら差し込んだ光で目を覚ました時、二郎は何かを見上げていた。追った視線の先には、蔦と埃で曇り切ったステンドグラスと古びた十字架。近くにあったのは整然と並んだ木製の長椅子。
 俺が起きたのに気づかないまま二郎は指を絡めた手を握りしめた。
—-『病める時も健やかなる時も』


「オイ、それやってるうちにどっかから通報されんじゃねぇかよ」
「大丈夫だって。金も勿体無いし自分でレストアしたらタダでくれるっつんだから。アンタの分も俺がやってやるからメットと荷物用のコードかネット調達しといてくれよ」
 振り向きもせず指図して英語半分手振り半分でバイク屋の爺とおんぼろバイクの改修話で盛り上がっている。
 でもいずれまだ乗れるうちに乗り捨てる。なんだってそうだ。気に入って手にした物も遠からず手放さなきゃならなくなる。物でも人でも。乗り物でも。俺以外のものは。
 それでもコイツは懲りずにあらゆるものに手を伸ばす。
—-『レストア』


音を聞きながら夜を明かす。明るくなるまでは何処へも行けない。手持ち無沙汰で最近覚えた煙草に火をつける。仕草を追うようにして左馬刻も自分のを咥えた。
 カチッカチッ。
「あれ、ライター切れた?」
 ライターに手を伸ばすと躱され、首に腕を絡めて引き寄せられる。煙草の先が触れ合った。そっと吸うと、湿気った小屋に一つだけの星が瞬いた。
—-『星』


「毛が鬱陶しい」
 伸びた髪の裾を摘んで言われた。ここら辺は気温も高いし確かに暑苦しい。こだわりもないから荷物から鋏を出し、
「切ってくれよ。アンタ結構器用だろ」
 だけど他人宛の郵便物でも見るような目で見て手に取らない。
「店で切れや。飯屋の親父が腕のいい床屋知ってるって言ってたろ」
「あんな鏡を見たこともなさそうな頭の親父オススメの店で切るぐらいならアンタのがマシだっつの」
 そういうわけで午後は散髪。大家に家の前でやれと言われてガタガタいう椅子を地面に置いた。柄の悪い無免美容師が失敗したって、不出来な頭を眺めるのは結局この人ばかりなのだ。
—-『散髪』


 立ち寄った食堂の壁に何枚かのレコードが飾られていた。尋ねるとプレイヤーにかけ、流れるノイズ混じりの歌に被せて店主がギターを弾く。店にいた常連客も歌い出す。歌詞は一つもわからないくせに二郎も手拍子と共にデタラメに歌い出した。曲名と共に記録しておく。─Candela
—-『Candela』


 大きな公園の横で足を止めた。見るとガキがサッカーをやっている。懐かしそうに見ていたかと思えば公園の隅でボロボロのボールを持って仲間外れになっている子供を見つけて突進していった。知らない外国人に追われた子供はボールを持ったまま泣いて逃げた。
—-『サッカーと少年』


 市場にはあちこちで鮮やかな色の果物や野菜が積み上げられている。虫にも見える実を見つけた左馬刻が渋面で「理鶯が好きそうだ」と呟けば店の親父が一つくれ、左馬刻は自分で食べずにこちらに差し出した。ビデオカメラの脇から顔を出して口で受け取る。酸っぱいけど、
「結構うめぇよこれ」
 結局左馬刻は食べなかった。食の安全評価に関しては信頼がない。
—-『朝市』


────どこまでも続く青空の下、錆びついた貨物列車の並ぶ南国の鉄道沿い。
「なあ、音楽を始めたのは?って聞いて」
『うっせぇ勝手に喋れ』
「ケチクセェな!……音楽は生まれた時からそこにあったんだ。俺はライムを刻むために生まれてきた……」
『一郎の真似して始めたクセに何言ってんだ?』
「……初めて手にした楽器はギター」
『どうせ小学校の鍵盤ハーモニカだろカス』
「うっせ!折角アナザースカイっぽい景色歩いてんのに茶々ばっか入れてくんじゃねぇよ!」
—-『アナザースカイ』