イケブクロ事変・その後/さまじろ/2107

 服をめくると腹に派手な痣があった。腕にも。顔も口の端が切れているし驚きはないが、Ωのフェロモンを浴びて浮かれた頭は一瞬だけ冷えた。
 体を暴く手が止まると怠そうに体を投げ出して目を閉じていた二郎がこちらを見て眉尻を下げる。
「ごめん、萎えた?」
 腹の方の痕に手を乗せて俺の視線から隠す。
「いいや……。お前、これ痛くねぇのか」
 手を外させて服を脱がすとまた新しく痣が見つかる。場所からして致命傷を避けてわざと喰らったものも多いみたいだが。喧嘩がライフワークの不良だって慣れているだけで殴られたら当たり前に痛い。喧嘩が終わると急激にダメージが襲ってくるのもよくあることだ。実際、見た目の酷いところを触ると腫れて熱を持ってる。
「うーん……あんま痛くない」
 だからやめないで、と首に痣だらけの腕を絡めて甘えてくる。逆らわずにキスであやしつけてから腕を解いた。
 体が離れるのを嫌がってガキみたいにぐずる頭を撫でてベッドを降りた。タオルと氷嚢と湿布を多めに持ってきて嫌がる二郎の身体に貼り付ける。氷嚢は湿布の残りと一緒にベッドサイドに置いた。あとは様子を見て使う。
 当たり前の手当てだ。だけどヒートで苦しい二郎は自分の怪我なんかどうでもいいらしい。俺がベッドに戻るとシャツの袖を引いた。
「やめない?」
「やめねぇよ」
 痣を見るといつも通り抱くのは躊躇われるが、怪我があろうがなかろうが濃いフェロモンを嗅ぎ続けて我慢はできない。
 背中から抱いて尻の間に指を忍ばせ、足の付け根までベタベタになっているのを確かめて下半身を押し当てた。
 足の間で数回擦ってから先端を窪みに合わせて押し込んだ。グズグズの体は簡単に飲み込んでしまう。進めるだけ奥まで埋め込むと、不規則に悩まし気な声を漏らし続けていた二郎もやっと安堵したように息を吐いた。
 不便な体だ。αもそうだが、Ωはもっと厄介だ。発情すると痛みに鈍くなる。首回りはもちろん、本人の意思なんかそっちのけで本能が雄に体を差し出すようになってる。妊娠しやすいよう体温が上がって動きも鈍り、腹の中だけが貪欲に蠢く。
 怪我があってもお構いなし。病気をすると稀にヒートがなくなることもあるらしいが、大抵はダメだ。ヒートが軽いΩなら大した問題にならないが、今の二郎みたいに抑制の難しいΩが安静を必要とする場合は強い抑制剤を投与される。下手すりゃ骨折で入院してもヒートが終わるまで点滴に繋がれて飯も食えずに寝続けるハメになる。
 そもそもオメガバース、特に独身者の入院は強制的に個室。ヒートでなくても番や異性の面会禁止なんてルールが敷かれている場合もある。お陰で怪我でも病気でも、入院を嫌がるオメガバースは多い。
 繁殖本能の暴走が本人の命さえ脅かす。生物としてのバグだ。
「…………なあ、動かねぇの?」
 突っ込んだっきり、背中から抱きしめてうなじに鼻先を押しつけていると腰を動かして尻を押しつけてきた。時間にすれば二分ほどか。我慢の利かない尻の中をゆっくりかき回してやると嬉しそうに締め付けてきたが、再び動かなくなったとみると腹に絡めた腕を叩いて催促される。
「文句言わず大人しくしてろ」
「やだ。怪我ならホントに痛くねぇからさ、いつもみたいにしてくれよ」
 手を掴まれて下腹に導かれる。仕方なく手のひらで撫でてやって、それで終わりにするとますます不満を垂れた。
「動いてくれないなら俺が乗る」
「支えられて部屋まで来たくせに何言ってやがる。痛覚がバカになってもあっちこっち腫れてんだから聞き分けろや」
「アンタ逆の立場だったら絶対我慢しないクセに!」
「逆もクソも、俺様はこんなに何発も食らう前にぶちのめしてんだよ」
 ヒートのせいでいつも以上にアホになっているガキのうなじを噛んだ。そうすると中が波打つように動く。βのセックスは入れっぱなしにすると中折れしたりするらしいがαは違う。体力が落ちた年齢のαとΩ夫婦に至ってはフェロモンを交換することを主目的にしたようなスローセックスも多い。面倒な体と折り合いをつけて暮らすための、ひとつの手段だ。
 お互いのフェロモンと体温を混ぜ合わせて満足するまで密着して過ごす。堪え性のないガキほどじゃないが、こっちだって焦れる。それでもこれから先も何千回も抱き合うんだ。たまにはこういうのも悪くない。
 何を言ったって俺が聞き入れないと分かった二郎は苦情を諦めて黙ったが、すぐ物足りなくなって、あらゆる手段で挑発された。ひとつひとつを黙殺して、ほんの少しだけ内壁を擦ってやって。自分の中の衝動を首を噛むことで誤魔化した。
 そのうち大人しくなったのを不審に思って上半身を起こして顔を覗くとよだれを垂らして眠っていた。多少はヒートが落ち着いたんだろう。疲れの滲んだ目元に涙が伝った跡が残っている。額に手を当てたが、怪我による発熱はないようだった。
 起こさないように簡単に下半身の始末をしてベッドに入り直す。まだ番のフェロモンは濃く残っていて眠れそうにはなかったが、明後日までは誰も連絡してくるなと釘を刺して休みを取った。αが番のために休暇を取るのは当然のことだ。もう誰に邪魔されることもない。