スケベ練習/さまじろ/2679

 枕によだれや少しの涙が染み込んでいく。顔を押し付けているせいで息苦しくて、下半身から上がって来る途方もない快感に奪われた思考力の残りも消し飛びそうだ。
 容赦なく攻め立てられるうちに膝がシーツを滑って突き出すようにした尻が沈んでくると、馬でも叱咤するみたいに太腿を手のひらで叩かれ、腰を掴んで男の納得する高さまで引き上げられる。
 もうこっちは何度かイッてるのに、それを咎められない代わりに気にせず内部のやわな粘膜を抉られ続けて泣きが入っていた。正気なら殴られたって弱音を吐くつもりないのにこれはダメだ。自分でだって触ることのない腹の奥をガンガンやられると虚勢も張れない。
 自分の体なのに主導権がない。男が声を出すよう望んで動けば我慢できずにあられもない声をあげてしまうし、締め方を教え込まれた臓器は意思とは無関係に収縮して中に埋められたもものの形を憶えようとする。
 荒く扱われているようでいて、左馬刻は俺が気持ちよくなれないことをしない。普段は短気なくせに指一本から咥え込ませ、無理なく本番が出来るところまで辛抱強くあやしてくれる。それが大人の余裕ってことなのか。はたまた冷静でいられる程にしか俺に興味がないのか。あんまりいい想像が出来なくて考えないようにしている。体は気持ちいいことばかり与えられてりゃ理性と無関係に従順になっていく。
 体内から抜かれそうになると口を窄めて深く押し込まれれば絡みつき。上手に咥えたら時々は褒められた。ちょっとは上手くなったって。
 でもそこでばかり繋がっているとバカになった頭でも寂しくなって、筋肉の張り詰めた足に手を伸ばしてピストンをやめさせ、
「ンだよ」
「……ん、あ、まっ、まって」
 一度止まってくれたのにすぐに要求を言わないとすぐ「早くしろ」とまばらに腰を押し付けて来る。自分のペースで動き出してからはやっぱり短気かもしれない。
「あ、やっ、やめ………んっ、ん、……はぁ……ちゅー、したいから……」
 後ろからはもうやめて欲しい、という言葉は言わなくても伝わった。襟足から髪に指を通して軽く撫でられ、焦らされず一度繋がりを解かれた。抜けていく瞬間は自分が頼んだのに惜しくて抜けるのを阻むようにギュッと力が入る。中にいると分からないのに、抜けて内腿に擦れると熱さを感じて空っぽの腹がもう一度犯されるのを期待して疼いてしまう。
「おら、こっち向け」
 伏せていた上半身から順に体を捻って反転させると完全に仰向けになる前に足を掴まれて大きく開かされた、その間に白い腰を割り込ませてくる。ぽっかり口を開けたままの穴は簡単に男を飲み込んで腹の裏側を擦られる感覚に鳥肌が立った。
「ヒィッ、あっ、あっ、……んぅ、んー……」
 再度向きを変えて奥まで入り込まれる感覚に呼吸も声も区別なく漏らしていると望み通りに唇が降りてきて、口から垂れ流されるものすべて閉じ込められた。
 キスの仕方も舌の使い方も教わったのに何も上手く出来ない。差し込まれる舌に必死に対応しようとしても左馬刻のやりたいようにされるばかりで、だけど気持ちがいい。
 強制的にでも射精まで持っていかれるような下半身由来の強烈な気持ち良さと違って、キスをしているとちゃんと好かれているような気がする。唇を貪りながら緩く腰を揺さぶられている時が一番いい。すぐ終わるような激しいのじゃなくて、もうしばらくこのままでいたいなんて考えながら背中を抱いて。
 嵐のようなセックスの途中の台風の目みたいな甘やかな時間だ。散々やられて頭がどうにかなっているから素直に甘ったれても仕方ない。そうだろ?離れていくのを嫌がって首に腕を絡めて引き寄せ、唾液でベタベタの唇に舌を伸ばす。灯の少ない薄暗い部屋の中でも白い顔に赤く濡れた唇は映えて見えた。俺がそれを濡らしたから俺の舌で拭う。
 そうやってまだ甘えていたかったのに突然強く突き込まれて反射的に体に力が入る。背に回した手でしがみついて押し寄せる淫靡な波に耐え、耐えきれなくてピアスだらけの耳元に泣き言未満の呻き声を注ぎ込みながら全身で男を締め付けた。一際強い感覚に足先がピンと伸ばす。
 初めてのセックスの時も女みたいに挿入される側で、それまで健全な男子として妄想していたセックスとは全く違って何か今までと別の生き物に作り変えられたような気がしたもんだが、射精を伴わない絶頂を初めて経験した時にも新鮮にショックを受けた。本当に体の中身が変わったわけでもないのに普通に男として生きて、多分女の子とセックスするんだろう周りの仲間とは違うものになったような気がして。
 だけど左馬刻が、そうなるよう仕向けた男が喜ぶから。
 頭の中が真っ白になる。
 不規則にビクつく腹の中でも遠慮なしに動いていた左馬刻がしつこいほど深くまで腰を押し付けてくるのでやっと果てるのだと分かって、上手く力の入らない手で背中を撫でた。ゴムは着けていても腹の奥に出そうとする動物じみた仕草が好きだった。
 多分生で出されたってどうにもならない。腹を壊すぐらいで、意味なんかない。それでも性欲がそうさせているだけだとしても、執着されてるみたいで気分がいい。
 左馬刻の方が終わってもこっちはまだ余韻が残っていて、中でゆっくり萎えていくものを未練がましくしゃぶっている。
 口にも欲しい。片手で頬を撫でて誘導するとすぐに緩やかなキスが与えられた。二人とも満足した後、抜かれるまでの僅かな時間に一ヶ月分ぐらい甘やかしてもらう。頭も撫でてくれるし涙が溢れていたら指や舌で拭ってくれる。
 セックスそのものを大事にしていないこの男相手に抱かれていて不安を抱えずにいられるのはこの時間のためだ。男は射精が済むと急激に頭が冷めるとか言うけど、俺は気がすむまで肌を合わせていたいし左馬刻もそれに付き合ってくれる。意外なことに。
 俺には他に抱き合いたい相手がいないけど、左馬刻は不特定の女と平気で寝る。言葉で俺たちの関係を整理したことがないから、もしかしたから俺もセフレの一人なのかもしれないけど、股関節ガクガクになるまで頑張った後ぐらいはちゃんと愛されてるって妄想したっていいだろう。
 他の誰にもこんな風に優しくしていないといい。こんな厄介な男に引っかかってしまうのは俺一人で十分だ。
 疲労感でシーツの上に溶けかけながらも脱げかけたゴムが緩んだ穴から抜けていくと往生際悪く腰に手を伸ばし、取り戻そうとすると左馬刻は笑って半分閉じた瞼に手をかざす。
「寝て起きたらな」
 もう半分眠りかけた耳に届く声は願望込みで甘ったるく響いた。