催淫マイクネタ/さまじろ/4854

 夜中に携帯が鳴る。ディスプレイに表示された名前を見て二郎はあからさまに眉を顰めた。お互いの立場上、稀に利害が一致するからアドレスを登録してあるだけのクソ野郎だったからだ。
 気乗りはしないし向こうから持ち込まれる話の全てが二郎にとって得になるものとは限らない。だけど相手だって毎回相応の用事があってかけてくるのだ。
 クソみたいな話だったら即座に切ってやろうと心に決めて電話に出た。
「突然すみませんが左馬刻が違法マイクで発情してしまったので監視役を頼みます」
 なんだ、新しいラノベのタイトルか。
 一瞬そう思うほどにはクソみたいな話だった。文中に左馬刻という固有名詞が入ってるからギリギリのところでラノベじゃなかったが、先の展開はだいたい読めた。
「かくかくしかじかで、最近ヨコハマに出没していた催淫効果のある違法改造マイクの攻撃から女性を庇ってモロにダメージを受けてしまいまして」
 直撃から暫くは持ち堪えて犯人確保と女性の避難は果たしたが、じわじわ効いてきて現場に同行していた毒島メイソン理鶯に襲いかかった。理鶯は確かに左馬刻の近くにいたが、理鶯、銃兎、犯人、野次馬がいた現場で最も屈強な男だ。
「尖ったチューニングを施された違法マイクは使い勝手が悪い分、条件が揃えば強力だったりしますけど。それにしてもよりによって一番に理鶯を襲うとは。本当に見境がなくなるんで驚きです」
 銃兎は即座に頸動脈に手刀を叩き込まれ意識を失った左馬刻を自宅マンションに運び込むところだという。左馬刻だってマイクなしのステゴロでもかなりの強さのはずだが、そんな左馬刻を押さえ込める貴重な人材が理鶯だ。
 お陰で余計な被害を出すことなく事態の収拾がついた。左馬刻の状態を除いては。
「眠っている間に治ればいいんですけど。目覚めてまた興奮状態になってしまったら一人にしておくのは心配でしょう?左馬刻は自宅に他人を上げるのは嫌がりますしね。その点、貴方は上がり慣れてるでしょうし」
 とんだ警察官だ。未成年に野獣と化した男の相手をしろという。それはもちろん左馬刻と二郎の日頃からの関係を踏まえた案であるし、貞操の話は今更でもある。
「違法マイクとはいえ、左馬刻のことが心配でしょう?」
 何回も繰り返し思ったが二郎は改めて思う。嫌な男だ。

 そういうわけで大急ぎで左馬刻のマンションに向かい、玄関前で合流して二郎の預かっている合鍵で入って左馬刻をベッドに寝かせたところで二人は帰った。 理鶯が手助けは必要かと尋ねてくれたが二郎は断った。
「困ったらその時頼むわ」
 左馬刻が起きた時に理鶯がいると機嫌を損ねる恐れがある。それというのもこのマンションは本当に二郎しか上がり込んでいない部屋だからだ。チームメンバーと会うときは別の部屋を使っていて、そちらは二郎も鍵を預かっていない。左馬刻は理鶯に甘いので許されるかもしれないが、違法マイクの影響を受けている上に怒り出したら厄介だ。
 それに二郎だって腕力勝負になったら負けるつもりはない。喧嘩の腕は兄譲りだ。
 逆にマイクの影響で嘔吐や頭痛なんかがあった場合の方が不安で、タオルや桶を家の中から集めて看病の支度もした。

 そうして色々な想定と準備をしたものの、着の身着のまま横たわる左馬刻の様子を見ると白い肌がほんのり紅潮して魘されている。思いついて確認した下半身は身につけたままのジーパンが窮屈そうに張り詰めていた。
 ラノベっつーかエロ同人誌ルートじゃん。
 的確なことを思いながら自分の指から指輪を取り去ってベッドサイドに置き、指で服の上からそっと撫でる。体がピクリと反応して、薄っすら開いたまぶたの隙間から赤い目が見える。
 気がついたのを横目で見ながらベルトを外してジッパーを下ろし、前を寛がせた。下着はすでにべっとり汚れている。布の上から染みた先走りを指でくるくる塗りつけると左馬刻は息を詰め、完全に覚醒して二郎に手を伸ばした。その手に掴まれる前に二郎の方が手首を握って止める。
「おはよ。調子どうよ」
 力有り余るほど元気な股間を撫でながら。体は過剰に反応するが左馬刻の表情は最高に機嫌が悪かった。
「……くっ、そ、なんでテメェがいやがる」
「ウサポリに呼ばれたんだよ。アンタが目を覚ました時の監視役にって」
「あの野郎……はぁ、クソ、余計なことを……」
「でもコレ、キツいんだろ?一発抜いたら楽になるかもしんねーし手伝ってやるよ」
 下着のウエストを引いてベタベタな布地から中身を解放する。固く反り返った雄に挨拶程度に口付けると白い喉仏が上下した。まんざらでもない。興奮して仕方ないってだけなら体調不良よりマシだしエロ本ではこういうのは抜けば解決するのだ。二郎だって嫌じゃない。その辺の風俗にぶち込まずに自分に連絡を寄越したことに関しては、銃兎に感謝しないでもない。
 いくら違法マイクによるステータス異常だと言われたって、好きな男の世話を他人にさせたくはない。
 拒絶の言葉はなかったからそのまま唾液をためて口の中に含んだ。最初からパンパンで上顎に擦り付けると二郎の方も気持ちよくて、処理だと思っても興奮した。予想したより左馬刻も理性的だったし。
 ついでに、いつもは余裕綽々で下手くそ呼ばわりなのに素直に気持ち良さそうな反応を示すのが面白くて。夢中でしゃぶっていたら頭を押さえつけられてあまり保たずに口腔内でぶちまけられた。普段ならこれぐらいじゃイッてくれないし口の中に出されたこともない。上手く受け止められなくて咳き込んで、毟るようにして掴んだティッシュに吐き出した。
「おい、出すなら出すって言えよ」
 苦情を言いに顔を上げて、まだマイクの効果が切れていないのを悟る。口から出したものも萎んでいかない。
 目顔で「マジかよ」と問おうにも苦しそうに目を伏せられて目が合わないから手で確かめた。少し扱くだけでみるみる硬くなって、堪えるようにシーツをキツく握りしめている。
「……こんなんじゃ足んねぇの?」
「うっせ、早くどっか行け」
 吐息混じりの命令を無視して手と膝で這って左馬刻の体を跨ぎ、体を寄せるとますます苦しそうにする。二郎そのものが毒みたいに。
「やりてぇの?」
 片手でゆっくり白いシャツのボタンを外していく。歯を食いしばっているせいで返事はなかった。
 左馬刻の上で一度体を起こし、上着を脱いで自分自身のベルトを外す。そこへきてずっとソレから目を逸らしていたのに我慢できなくなって、赤い目が二郎に向いた。カットソーを裾から捲り上げると現れる健やかな薄い腹を舐めるように見た。
 服を頭から抜いて乱れた髪の間で挑発的に光る目と目が合う。
「仕方ねぇから誘惑してやるよ」
 そんな言葉で許した。見境がないなんてとんでもない。普段は好き勝手するくせに下手くそな我慢しやがって。
 左馬刻は十分に耐えた。自分で褒めたくなるほどに。だけどついに、音を立ててその箍が外れる。

 冷静になった後から思い返せば誘惑なんて言いながら「待て」をさせてトイレに鍵をかけて閉じこもった二郎の判断は正しかったと思う。男の体は簡単には受け入れ準備が整わない。いつもは時間をかけて体を開いていくことも楽しみの一つだったが、違法マイクのせいで異常な興奮状態に陥ったままでは支度が整うのを待てなかった。
 ベッドにいろと言われても焦れてしまって、トイレの鍵が解除された途端に押し入って壁に押し付けた。ベッドもソファもすぐそこの自宅なのにだ。
 支度しに離れる直前に着けとけと言われたゴムだってどうもスムーズに着けられなくてイラついて投げ捨ててそのままハメた。その時はもう狭い穴に突っ込んで、自分の形に馴染んだ内壁を擦り上げることしか頭になかった。
 中で一度出せばいくらかは落ち着いたが萎えていないことを見抜かれて、ベッドがいいと言われて素直に移動した。移動すればまた心置きなくこの体を抱けるからだ。
 いつもならもっと二郎の反応を見て加減する。そうでなけりゃ相手を選んでする意味がない。なのに、暴力的なまでの欲求に目が眩んで一度ブレーキを手放したらどうしようもなかった。
 何度目か、もう何も出ないってぐらいのところまできて水でもかけたれたみたいに急速に頭が冷えた。動きを止めたことで二郎にもそれが伝わり、ぐったり投げ出した手を持ち上げて頬を撫で。
「治ったかよ」
 左馬刻の口から返事はなかったが呆然とした顔から違法マイクの呪いが解けたのだと理解して、目を閉じてそのまま二郎は意識を手放した。疲れの滲む顔で穏やかな寝息を立て始めたことで尚更に左馬刻を打ちのめした。

 例えば酔っていて記憶がないとかだったらまだ気が楽だったかと考えたが、正確に反省できないというのはもっと恐ろしいことだと思う。自分のしたこと全て憶えているから、それ以上のことはしなかったと分かって幾許かの安心を得られるのだ。
 二郎が好きなだけ眠って目を覚ました時、ベッドの中に左馬刻はいなかった。まさかまだマイクの効果が残って外に出たんじゃないかと焦ってベッドを降りようとしたのに腰に力が入らなくて、手をついたサイドボードに置いていた指輪を落としてしまった。その音で気がついたらしくリビングから部屋着姿の左馬刻が戻ってきた。
 そこで二郎も自分の格好を意識して見下ろすと、この部屋に置きっぱなしにしているスウェットに着替えが済んでいる。
 見渡す限りの片付けが終わっているのを確かめ左馬刻が持ってきたペットボトルの水を一口飲んで重い体を再びベッドに投げ出した。寝て起きたから頭はクリアだけど肉体は回復し切れなかった。左馬刻がベッドの脇に座り込んだから焦って動く必要もない。
 ベッドにすら座らなかった。ベッド脇の床だ。煙草も、二郎が起きるのを待つ間にも取らなかった。随分と落ち込んでいる。
 上半身を捻って片肘を立て、猿より分かりやすい反省の後ろ姿に手を伸ばす。普段なら嫌がるのに頭を撫でてやっても罵詈雑言は飛んでこない。
 代わりに聞いたこともないような神妙さでぽつりと。
「悪かった」
 あんまりにもらしくなくて、二郎は笑い飛ばすべきか馬鹿にするか迷った程だ。多少は反省するだろうと思ってはいたけどどうせ数日前にもこの部屋で抱き合った、そういう仲だ。こんな風に手酷くやられたことはもちろんないにしても日頃から横柄なヤクザ男。ベッドの中では優しいことを意外に思っていたくらいだから大してショックはなかった。少しも傷つかなかったかといえば嘘になるが、それも承知でこの部屋に来た。
 髪を指に絡めても引っ張っても怒らないのでよっぽどだなと理解して二郎は自分の頭をかく。
「いいよ、アンタに素直に謝られると調子狂うからやめろよ。……記憶は?」
「全部ある」
「なら俺がいいっつったの覚えてんだろ」
「…………」
 マイクで混乱している時のことは仔細というわけでなくとも憶えている。自慰を覚えたばかりのガキみたいにガツガツして体が落ち着かなくて、冷静に自分を戒める思考と肥大し続ける欲とのせめぎ合いだった。特にこの部屋で二郎の顔を見てからは関係に甘えて「コイツならいいんじゃないか」と最低なことを考えた。それを見透かしたように誘われて耐え切れなかった。
 二郎が抱かれたくて誘ったんじゃない、甘えちゃいけない場面で許されてしまった。
 背を向けていた左馬刻が深く息を吐いてちらりと振り返る。
 やっと目が合った。甘い作りの目元が笑う。
「アンタ、違法マイクの攻撃くらってから一番に理鶯さんに向かってったって聞いたぜ。混乱してても確実に止めてくれる人選んでんじゃん。だから俺も、アンタに無理矢理なんてダセェ真似させねぇよ」
 赤い双眸が揺れるのがガキみたいだった。好き勝手しているようでいて、自分のやらかしを見返りなしに受け止めてもらえることに慣れていない。
 左馬刻の方から再び目を逸らしてからもう一度告げた。
「……悪い」
 それ以外に器用な言葉は知らなかった。