その他
観察者の朝/青道/1615
身代わりと秘密/棗梓/6857
『あら、棗だけ?』
出かける支度を整えた母がリビングに顔を出したので、テレビを切った。
今日は三つ子の兄弟と母の四人で出かける予定だったが、リビングにいたのは俺だけだった。
『梓はトイレ』
『椿は?』
『ずっと見てない』
『困ったわね。キッチンにもいなかったし待ちきれなくて外にでも遊びに行っちゃったのかしら』
その頃、椿は近所に引っ越してきた老夫婦が飼っている大型犬がお気に入りで、気がつくと老夫婦の庭まで遊びに出てしまっていることがよくあった。
母の予想の答えを知らない俺が黙っていると、ちょうど梓がトイレから戻ってきて母の袖を引いた。
『外じゃないよ、椿。ちゃんと家の中にいるよ』
俺は静かに驚いていた。何しろ、今朝それぞれの部屋を出てから梓とはずっと一緒だったのだ。一緒に朝食を食べて、それぞれの部屋に戻って出かける支度を整え、すぐに出てきてリビングで暇つぶしにテレビを見始めた。たくさんの兄弟がかわるがわる顔を出したが、椿の姿は見ていない。
『梓、椿がどこにいるか知ってるなら呼んできてちょうだい』
すると梓は首を横に振る。
『知らない。外じゃない、と思うけど……』
少しうつむいた後でパッと顔を上げて入り口を振り返った。ドタバタ音がして勢い良く扉が開く。
『あ!良かった、もう置いてかれたかと思った!』
椿だった。俺は何もわからなかった。椿が家にいることも、リビングに来ることも。
椿と梓と俺は三つ子だった。椿と梓は一卵性。二人と俺は二卵性。
二人が俺にわざわざ秘密を作ることは滅多になかったけれど、二人だけがわかっていて、俺がわからないことはたくさんあった。